シワにならぬよう 真っさらなまま
箪笥にしまっておいた
ポソンを出して眺めながら
止めどない愛着がこみ上げてくるのを
私は感じるのです 澄みきった朝の陽射しの下
真っ白に浮き上がるポソンよ
柔らかく、流れながら
潔い放物線を描いた
美しいポソンよ
古より私たち朝鮮女性たちが
一時も忘れられずに身につけてきた
このポソンが
今、私の体に受け継がれ
その昔の日々を 睦まじく囁くのです ポソンに宿した 朝鮮女性の苦難の歴史
ポソンが語る 朝鮮女性たちの
数々の気高い物語を 「己の国に向けた矢を下ろしなさい!」
我が子に祖国を知らしめた
鹿足将軍のオモニ 壬辰祖国戦争で賤しめを受けた奴婢、
妓生−桂月香の気概 悲運が祖国の大地を覆った
民族受難の時代
その潔きポソンを 泥水の中でも
降りしきる暴風雨の中でも
その固い節義を決して曲げなかったのです 長白の鬱蒼たる密林の中で
日帝と闘いながらミシンをまわした
パルチザンの女性隊員たち
木漏れ日で
綻びたポソンを繕いで履き
どんなに勇敢に仇敵を討ったのだろうか 私はここで
一足の白いポソンを前に
荘厳に響き渡る頌歌の旋律を聴くのです 私は異国に生きながら
朝鮮女性たちが大切に伝えてくれた
真っ白で美しいポソンを履くのです 足をぎゅっと包んだポソンを触り
私は足に力をこめて立ち上がり
堂々と大地を踏みしめて行くのです ※ポソン=朝鮮固有の足袋 リ・グムオク(1929〜)
三重県生まれ。詩人・児童文学家。日本の小学校国語教科書に掲載されている童話「三年峠」の著者。他に童話「へらない稲たば」「朝鮮の昔話」詩集「いちど消えたものは」(05年「赤い鳥文学賞」)などがある。(選訳・金栞花) [朝鮮新報
2010.11.8] |