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〈本の紹介〉 拉致問題を考えなおす

「国交正常化しかない」

 拉致問題後の朝・日関係の悪化は、目を覆うばかりである。本書は、世論に迎合してデッドロックに乗り上げたこれまでの日本政府の政策を批判し、前提条件なしにまず交渉すること、日朝国交正常化を目指すこと、それのみが拉致問題解決や緊張緩和に資することを冷静に分析し提言する。

 9.17以降の「北朝鮮憎悪とナショナルな義憤」をかき立てる日本のメディアのエモーショナルな報道。異論をさしはさむのを許さない危険な雰囲気のなかで一体何が生まれたのか。朝鮮学校に通う子どもたちへの迫害が続き、チマ・チョゴリ切り裂き事件も相次いだ。各地の民族学校には脅迫状が送りつけられ、総聯会館が白昼、銃撃される事態に至った。

 このような状況下で人は誰も、人間としての生き方を問われる。状況に流されるのか、抗うのかと。人は人を愛するのか、憎むのか。あるいは、平和を望むのか、戦争に向かうのかと。

 本書はそうした根源的な問いに立ち、北東アジアに冷戦を長引かせようとする悪意に満ちた北風が吹き荒れる最悪の状況に立ち向かった識者、市民たちの声であり、行動の記録でもある。

 ここ数年、「拉致問題一色、ブルーの色で、日本社会は染め上げられたよう」(和田春樹・東大名誉教授)な状況におちいった。本書はそこに風穴を開け、孤立を恐れず、ひるまず異を唱えつづけた人々の講演を収録している。拉致問題を考え直し、この閉塞状態からの突破口、解決への真の道を探すべきだと訴えている。

 ▼硬直化、先鋭化したような方法だけではなくて、柔軟な対応が必要な時期になっているのではないかと私は思う。もう恥とか外聞とか言っている場合ではない。日本政府には真剣に考えてほしい。感情を表すのは家族だけで十分だ。政府には理性を持ってほしい(蓮池透)。

 ▼今度の拉致非難も、外国の学者やニューズウィーク誌に集団ヒステリーと批判された。この場合、国民も北朝鮮非難を煽る政府・マスコミの共犯者。この状況が続けば拉致問題の解決はさらに遠のく。政府は拉致非難で交渉の道を閉ざし、自分の手足を縛ってしまって、平和の探求に努力も貢献もできない状態になっている(東海林勤)。

 ▼今、北朝鮮をぶっ潰す、レジームチェンジということを考えている国はどこもない。ブッシュ政権も最初はそうだったかも知れない。…今、韓国にせよ、米国にせよ、中国にせよ、ロシアにせよぶっ潰そうというように考えている国は一つもない。…日本だけがぶっ潰すつもりでやっていくのか、ということだ。この辺をよくよく考えなければいけない(菅沼光弘) ▼警察の捜査というのは、本来、徹底して法と事実に基づいて行われるべきものであり、北朝鮮に圧力をかけるのが警察の役割であるとか、北朝鮮が困る事件を摘発するなどと警察トップが口にするのは、ゆがんだ警察権の行使を誘発しかねない。実際、全国警察はその通りの動きをした(青木理)。

 ▼拉致問題の解決を進めるためには、北朝鮮と交渉しなければならない。核、ミサイル問題についても交渉して解決するしかない。歴史の清算も同様だ。北朝鮮との間にあるすべての問題を解決するには外交交渉をするしかない。…北朝鮮と国交を樹立し、大使を交換することにすれば、東京でも、平壌でも、いつでも交渉できる(和田春樹)。

 狂気に満ちたメディアの朝鮮報道、蔑視観をえぐり出し、日朝関係の明日に、平和と和解の橋をかけようとする良心の呼びかけが胸を打つ。是非一読を勧めたい。(蓮池透、和田春樹、菅沼光弘、青木理、東海林勤著、青灯社、1500円+税、TEL03・5368・6923))(粉)

[朝鮮新報 2010.11.4]