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〈本の紹介〉 死刑台から教壇へ 私が体験した韓国現代史

統一と民主化への不屈の信念

 1972年10月17日、朴正煕政権下にある南朝鮮で大統領による特別宣言が発表された。大統領直選制の廃止、御用代議員による間接選挙、大統領の重任制限の撤廃を命ずる「非常戒厳令」などであった。「維新憲法」の名の下に南の民衆が願った民主化の道は、完全に崩壊したのである。

 在日2世である著者・康宗憲氏は当時、ソウル大学医学予科に留学していた。本書では、同氏が直接目で見て自ら体験した南の軍事独裁政権の実態が明らかにされている。

 終身大統領へと足場を固めた朴正煕は、市民たちの改憲運動を「維新体制を転覆し社会を混乱させる不純な動き」と規定した。反政府運動が行われるたびに新たな「大統領緊急措置令」を発動しては、容赦ない暴力で制圧した。

 軍警による血の弾圧の中でも、多くの学生、市民たちは軍事独裁政権に抗い、自由と平和、民主化を求めデモ行進を行い、集会を開いた。

 1975年11月27日、当時24歳だった康氏も学生運動に参加。その結果「北朝鮮のスパイ」にでっち上げられ、KCIA(韓国中央情報部)に連行された。

 取り調べとすさまじい拷問を繰り返し受け、死刑判決を受けた同氏は、「30年以上を経た今でも、冷静な心で自らの拷問体験を振り返ることができない。私の人生において、あれだけの恐怖感と惨めさを味わったことはなかった」と語っている。

 死刑判決から無期懲役、さらに減刑され13年という長期にわたる獄中生活の後、88年12月21日に釈放された。

 その後、日本に戻って「在日韓国人政治犯」釈放運動に参加しながら現在、各地で獄中体験について語るとともに、祖国統一を願って講演活動を精力的に展開してる。

 本書は、「人生をリセットし、同じような選択の機会が与えられたとしても、私はやはり母国に留学し、民主化運動と統一運動に参加したでしょう。その結果がたとえ投獄と死刑判決であったとしても…」と結ばれる。

 日本で政治犯釈放運動を行う傍ら、現在早稲田大学アジア研究機構客員教授。いくつかの大学で人権と平和に関する講義も行っている。

 北南、海外の多くの同胞が望む朝鮮半島の平和と統一を目指し、歴史の真実を明らかにし、活動を繰り広げていこうとする康氏の不屈の信念が込められた1冊となっている。(康宗憲著、角川学芸出版、TEL 03・3817・8922、1700円+税)(尹梨奈)

[朝鮮新報 2010.10.25]