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〈本の紹介〉 日本の植民地支配と朝鮮農民

炙り出す過酷な実態

 本書は日本の植民地支配下の、朝鮮半島の人口の8割を占める朝鮮農民の生活の様相をあぶり出し、とくに戦時下での過酷な支配の実態を明らかにした労作。

 在日1世たちを取材しながら「昔は、朝鮮人が日本人より体格がはるかにすぐれていた」という話をよく聞いた。半信半疑で聞いていたが、本書は統計的にこの話を裏付ける貴重な資料が網羅されている。ただし、「体格的にすぐれていた」のは、1940年に刊行された「朝鮮の農村衛生」(岩波書店)によれば、当時20〜50歳の朝鮮農民の場合である。これによれば、当時の日本人農民の身長は157センチ前後であったが、朝鮮の調査地である慶尚南道蔚山邑達里(現在の蔚山特別市)の農民81人の平均身長は164センチであり、7センチも朝鮮人の方が高かったという。また、体重も朝鮮人の方が3キログラムも重かったという。ただし、この数字は、「韓国併合」前にほとんどが生まれ、成人した人たちである。 しかし、この調査報告書は、植民地支配が進み、日本による収奪が激しくなればなるほど、達里の子どもたちの身長は日本人の子どもたちより各年齢ともに低くなっていることを実証。同書は次のように指摘している。

 「20年前に生まれた現在の達里成年男子の身長は内地(日本)のそれより高いのに対し、発育期にある今の児童の身長が、いかなる年齢においても例外なく、内地児童より低いということは、実に経済的生活の劣悪にともなう栄養の不良を反映するものである。即ち歴史的に、朝鮮の一農村の児童の体格が低下していることをしめすものであって、勿論発育期の末期に於いて急激に身長が伸びるものとは考えられないのである。達里の児童が成人した暁には、現在の成人より遥かに身長が低くなるであろう、という様なことは、調査当時眼前に見る児童たちの体格からして充分推察されたところである…」

 この調査が実施されたのは、1936年の夏。「韓国併合」から26年が経過している。この間、朝鮮農村における児童の体位が次第に低下した事実が証明されたという意味で、画期的な調査であるといえよう。

 本書はまた、朝鮮民衆の大半を占めた農民の生活に焦点を当てて、日本の植民地支配との関連についてあとづけを行った。日本で広く流布されているように、朝鮮は戦場にならなかったから、あるいは経済統制が厳しくなかったから暮らしやすかった、といった見解は全くの日本人植民者の目を通した印象であり、実際は過酷な植民地支配と資源収奪によって、劣悪な生活を強いられ、生活は破綻していった。著者は「その実態は他のアジア諸国の民衆が被っていた被害と何ら変わるところはなかった」と指摘する。そればかりか、朝鮮内の経済的な混乱と労働力不足を背景にした人為的な凶作、アジアでもっとも高いインフレ、食糧統制・強制供出下の食糧難、栄養不足などは農民たちの生命の維持を脅かすような事態となっていたことを明らかにした。

 疲弊する農村と農民の実態を通して、植民地支配の歴史的事実の解明に努めた良書である。

 本書の目次は次のとおり。

 第一章 朝鮮農民の食と栄養(植民地下朝鮮人児童の身長低下/朝鮮における小学校児童の食事と栄養状態/道別生命表と道別栄養調査)/第二章 凶作下の朝鮮農民(一九四二〜四四年の三年連続凶作と戦時農業/戦時下朝鮮の自然災害/肥料不足下の農民と稲作品種変更/朝鮮農民の農具不足と所有農具/労働動員と労働者不足)/第三章 戦時末期朝鮮総督府の農政破綻(農業政策の転換/農政転換の意味と農民/一九四五年度の米穀供出対策要綱に見る政策転換)/第四章 戦時下朝鮮農民の新しい動向(食糧不足を背景として/労働力不足下の朝鮮内闇賃金とインフレの進行/戦時末の朝鮮人商工業者たちの動向/農民の離村の増加/農民たちの軍隊からの逃亡)(樋口雄一著、「同成社近現代史叢書L」、2500円+税、TEL 03・3239・1467)(粉)

[朝鮮新報 2010.10.1]