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〈みんなの健康Q&A〉 漢方の考え方と診察法

 Q:漢方の独特な考え方に、「整体観」があると聞きましたが。

 A:漢方では、人体を一つの大きな有機体としてとらえています。これは一つひとつの組織が独立して存在するのではなく、互いに連絡を取り合いながら、人体を構成しているという考え方です。

 たとえば、内臓をみてみると、五臓といわれる肝・心・脾・肺・腎と、六腑といわれる胃・小腸・大腸・膀胱・胆・三焦とに分けられます。五臓は、それぞれ固有の特徴を持ちますが、全体としては、おもに気血の生成や貯蔵に関わります。

 六腑もまた固有の特徴を持ちつつ、互いに協力しあい、飲食物の消化や排泄物に関わります。同様に経絡(ツボの流れ)も、臓・腑・体表などを往来して、それぞれの働きと協力しているのです。

 たとえば、肝は目に開竅(影響するという意)し、筋を主る(関係が深い)といわれています。これは、肝の疾病が、目の異常や筋肉の異常、さらには肝・胆の経絡(身体の側面)の反応としても表れるということです。このようなことを「整体観」というのです。

 Q:人体と自然界はどのように影響しているのでしょうか。

 A:漢方医学は人体と自然界との関係を重視しています。これは、古代における自然観察より発達した医学の特徴であり、人の生存・成長さらに疾病に至るまでのあらゆる現象は、すべて自然環境の影響を受けていると考えているためです。

 自然界には風気・寒気・湿気・熱気・暑気・燥気と呼ばれる六気があり、季節によりそれぞれの盛衰があるのです。そこでこの六気に順応する生活を心がけ、逆にこの六気の変化を無視した生活は、健康を損ない、疾病を発生させることになります。たとえば、梅雨期や湿地帯での長期の生活は、湿気の影響を受け、胃腸障害や浮腫を容易に起こすなどであります。

 Q:漢方の考えに「陰陽」がありますが。

 A:陰陽学説は、古代中国哲学の考えであり、漢方の基礎となっています。つまり、世の中に存在するすべてのものは、陰と陽との二つの要素から成り立ち、さらに陰と陽は、互いに対立し、かつ影響し合うものとしています。

 たとえば、月が陰なら太陽が陽となり、地が陰なら空が陽となり、女が陰なら男が陽となる。さらに、すべての事象も陰と陽とに分けられます。陰には衰退、静止、寒性、不変などの性質があり、陽には亢進、活動、熱性、変化しやすいなどの性質がある。この考え方を医学に応用すると、皮膚が陽なら筋骨は陰であり、六腑が陽なら五臓は陰となります。

 このように陰と陽は、互いに対立しながら影響し合うのです。このように漢方医学では、人体の生理・病理はもとより、すべてにわたり陰陽学説の影響を受けているのです。

 Q:さらに「五行」という考えもあると聞きましたが。

 A:五行学説も漢方医学の基礎となる考え方です。五行の五とは、木・火・土・金・水の5つの要素をあらわし、行とは運行の意味です。つまりすべてのものや現象には、木・火・土・金・水と呼ばれる5つの要素が含まれていて、互いに変化し、影響し合い成り立つものとしています。

 医学においても、五臓の生理を考えると、木は成長、発散を促す働きがあり、肝は木の要素を大量に含む。火は炎上させる働きがあり、心は火の要素を大量に含む。土には万物を生化させる働きがあり、脾は土の要素を大量に含む。金には収納、変革を促す働きがあり、肺は金の要素を大量に含む。水には潤す、下降、寒冷などの働きを促す要素があり、腎は水の要素を大量に含む。以上のことを踏まえつつ、人体内の生理と病理を考えて、診察や治療に応用するのです。

 Q:漢方の診察方法に「望聞問切」があると聞きましたが。

 A:漢方では、機械や器具を使わずに、自分の感覚に頼って診察しています。そのために、あらゆる具体的な方法論が生み出され、それが合理的にまとめられたのが「望聞問切」の「四診」といわれるものです。

 つまり「望診」とは、患者の全身の状態や局所の状態や排泄物を観察することです。とくに「舌」を観察する独特な方法で、あらゆる情報を収集するのです。

 「聞診」とは、患者の声や咳、喘鳴、ため息などを聞くことで診察することです。この「聞」には「嗅ぐ」の意味もあり、体臭や排泄物や分泌物の臭いを嗅いで診察することも含まれます。

 「問診」これは患者に質問して、答える内容により病状を把握することです。

 「切診」とは、患者の体表に触れることで、病状を把握することです。ここには「脈診」が含まれ、脈を診ることによって多くの情報が収集できるのです。

 これらの診察法により集めれられた情報を分析しながら、診察治療に応用するのです。

 Q:漢方の独特な診察法に「舌診」があると聞きましたが。

 A:漢方医や針灸院で「舌」を診察された方は多いと思います。「舌」は内臓の状態を如実に反映しているのです。その内容としては、身体の気・血・津液の状態や邪気(病源)の性質や種類(μ血・水湿・痰飲など)、または疾病の部位(表裏)などを把握する診察方法なのです。たとえば、舌の赤みが少なく、表面に白い苔状のものが目立てば、身体が弱まり冷えていることが分かります。また、舌が濃い紫色をして、舌の横や裏側に紫色の斑点が見られれば、μ血(いわゆる古血)が病源であると診察します。舌がぼてっと大きく、舌の横に歯型がしっかり付くようならば、水湿つまり水はけが悪いと判断するのです。さらに多くの情報が、この「舌診」により収集できるのです。

 Q:漢方の脈診は、西洋医学の脈診とは異なるのですか。

 A:西洋医学では、脈の数、リズムなどを重視しますが、漢方では、脈拍のスピード、脈拍の強さ、脈拍の深浅、脈拍のリズム、脈拍の流れの状態、脈の緊張度など多くの側面から脈診を行っています。

 簡単に述べると、スピードが遅ければ身体が冷えている、早ければ身体内に熱があるのがわかります。脈拍が軽く触れても感じる(浮)ものは、疾病の位置が表面にあり、脈が沈んでいると疾病の部位が深いことを意味します。さらに脈の緊張度が高く、琴の弦のようにピーンと張った脈は、精神的な緊張などを意味します。

 このように、脈を触れるだけでも多くの身体内の情報を知ることができるのです。これらの独特な診察法を駆使して、多くの情報を収集して正確な診断を行うのです。

(李昇昊院長、うえの針灸整骨院、東京都台東区東上野1−18−10、TEL 03・3832・6880)

[朝鮮新報 2010.9.8]