〈本の紹介〉 「朝鮮の歴史から民族を考える」 「遺骨は叫ぶ」 |
本紙連載が2冊の本に この夏、朝鮮新報文化欄の2つの長期連載が本になった。1冊は「朝鮮の歴史から民族を考えるー東アジアの視点から」(明石書店刊)。筆者は朝鮮大学校図書館の康成銀館長である。「民族」をめぐって多種多様な言説が飛び交うなかで、日本社会の民族差別と朝鮮半島の分断という状況のなかで生きる積極的意味を在日朝鮮人の立場から、考えようというタイムリーな書である。 民族的な存在である在日朝鮮人にとって、「民族」についての理解はそのまま自己認識につながる最重要問題であるといえる。 しかし、「民族」とは、多面的・多義的な概念であって、この難問を解くのは、決して容易なことではない。 そこで、筆者は、専攻としている朝鮮史の脈絡のなかで「民族」を考え、そのうえで「一国史完結」的なとらえ方ではなく、東アジア史・世界史・在日朝鮮人史の領域を見渡しながら論を進めた。 在日朝鮮人の歴史的経験を特殊性の文脈だけで語ろうとする偏狭な語り口ではなく、本書は世界史から見た在日朝鮮人問題、あるいは在日朝鮮人問題から見た東アジア史というように、縦横無尽、かつダイナミックな方法論を駆使しながら論述を重ねている。 さらに、現在、国際的に焦眉の課題となっている歴史問題や歴史教科書問題、朝鮮文化財返還問題など幅広い項目が取り上げられていてわかりやすい。(康成銀著、3000円+税、明石書店、TEL 03・5818・1171)
■ もう1冊は、本紙で3年にわたる連載を終えた作家・野添憲治さんの「遺骨は叫ぶ」。社会評論社から出版された。 日本の韓国併合から100年になる今年は、日本が朝鮮人強制連行を始めてから73年でもある。だが、日本と朝鮮半島の歴史問題はいまだに解決していない。また、清算しようとする動きも見せていない。野添氏は日本政府が動かないのならまず自分から動こうと、「地底からの呻き声に耳を傾けた」と指摘し、次のように語る。 「骨の主の名前はわからないし、どんな殺され方をして埋められたのかはわからない。骨は何も語ってくれない。だが、過酷な労働をさせられて死んだり、また日本人に殺された人たちのことは、そのもの言わぬ骨に聞いて語ってもらうことが、日本政府や私たち日本人に求められているのではないだろうか」と。 日本の近現代史は、自らの都合に合わないものはすべて隠蔽、抹消されてきた。日本の近現代史を語るとき、朝鮮人の血と汗を抜きにして語れるものがあるのだろうか。鉄道、道路、飛行場、港湾、ダム…。 実際に歩くと、日本のいたるところに強制連行されて犠牲になった朝鮮人・中国人の遺骨が散らばっている。しかも、なぜ散らばっているのかを知らない人が多くなっている。一方、連行された人の家族たちは、主な働き手を奪われ、どれだけ過酷な人生を強いられただろうか。しかも、彼らがこの世に生きた証である遺骨すら、遺族の元に戻されていないのだ。日本敗戦から65年。地に落ちた日本の道義、道徳を告発する執念の書である。(野添憲治、1900円+税、社会評論社、TEL 03・3814・3861)(朴日粉) [朝鮮新報 2010.9.3] |