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〈本の紹介〉 軍隊と性暴力 朝鮮半島の20世紀

「軍隊と性暴力」を徹底的に検証

 3回にわたる朝鮮民主主義人民共和国での現地調査と南朝鮮および米国で公開されたぼう大な量の資料調査を踏まえ、朝鮮半島地域における日本軍性奴隷制問題を徹底的に暴き、軍隊と性売買・性暴力の関係を、1世紀を通して綿密に検証した労作。

 とりわけ、本書の大きな特徴は、日本の植民地支配、朝鮮戦争、冷戦下の分断という体験を経ながら、日朝間の国交が未だ非正常であるがゆえに、これまで日本ではその実態があまり知られていなかった朝鮮北部の日本軍性奴隷制被害の実態に光を当てたことである。現地調査を踏まえて、分析・研究したことは画期的な成果であろう。日露戦争期から植民地期まで一貫して東アジアにおいて軍事的に最重要拠点だった感鏡北道の軍都、羅南、会寧、芳津における「慰安所」の跡を確認することで、朝鮮半島にも「慰安所」が存在したことを立証した。植民地期に会寧に在住した日本人が作成した地図を現在の地図と対照しながら、今日の会寧から植民地期に形成された都市の基礎構造を探り出し、歴史的考察を加えた(第一章 金栄・庵逧由香論文)。

 また、日本「内地」向けの米積出港として、経済収奪の拠点としてつくられた植民地都市・群山(全羅北道)に出現した日本人向け「遊郭」が朝鮮人社会にも影響を与え、それが解放後に駐韓米軍の基地が設営されることで、基地村へと変貌する過程を追求した。現地でのフィールドワークを加え、一地方都市における植民地主義の継続を実証した(第二章 金富子論文)。

 本書では、第一部では軍事的拠点と経済収奪拠点という対照的な植民地都市における植民地支配と性暴力の関わりを考察し、第二部においては朝鮮半島全体にかかわる歴史的背景を探っている。第三部では、政治情勢が激動する解放後の朝鮮において「公娼制」「慰安婦」制度がどのように継承・改変されていくのかを考察する。

 以上のように、本書が一貫して追及するのは、軍事占領の植民地期から朝鮮戦争に帰結する「戦後」の連続性―継続する植民地主義である。

 「慰安婦問題の衝撃は、人道の罪を問う思想を深化させ、…それに伴う認識の進展は国際的に共有されてきた」(宋連玉)との指摘の通り、もはやこの問題は、過去の問題として見るのではなく、今日の問題であることを本書は生き生きと実証した。

 本書の構成と執筆者は次の通り。

 総論[宋連玉」/第1部 帝国日本の植民地都市−軍都と経済都市/第一章 咸鏡北道の軍都と「慰安所」・「遊廓」[金栄・庵逧由香]/第二章 朝鮮南部の植民地都市・群山の性売買−遊廓・アメリカタウン・性売買集結地[金富子]/第2部 植民地朝鮮の軍事占領と性管理/第三章 世紀転換期の軍事占領と「売春」管理[宋連玉]/第四章 朝鮮軍概史[辛珠柏](訳/鄭栄桓)/第3部 解放後南朝鮮・韓国の軍事主義と性管理/第五章 韓国における米軍の性管理と性暴力−軍政期から一九五〇年代[林博史]/第六章 廃娼論議に見る連続と断絶−植民地期から解放直後まで[宋連玉]/第七章 朝鮮戦争時の韓国軍「慰安婦」制度について[金貴玉](訳/鄭栄桓)/第八章 韓国における性売買政策の概観[山下英愛]/資料編(宋連玉、金栄編著、現代史料出版、TEL03・3590・5038、4300円+税)(粉)

[朝鮮新報 2010.8.27]