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〈みんなの健康Q&A〉 落ち着けない子、片付けられない大人−こども編

 最近、よく注意欠陥障害とかADHDという言葉を耳にします。一時期、部屋中をゴミだらけにして生活をしている女性がテレビに登場し、「片づけられない女たち」などと呼ばれ、注目を浴びたことがあります。それが広く注意欠陥障害について知られ始めたきっかけのようです。

 しかし、ADHDに対する情報の不十分さや偏見もありますが、それらに影響されることなく、病気に対する理解を深め、治療していくことが最も重要です。今回はADHDとADDについて説明してみましょう。

「注意欠陥多動障害」

 ADHDは、日本語で「注意欠陥多動障害」といいます。その中で、多動がなく、症状として注意欠陥だけが目立つタイプを「注意欠陥障害」(ADD)と呼んでいます。

 ADHDの主な症状には、注意力が欠如していて授業を落ち着いて受けることができない「不注意優勢型」、じっとしていることが不得意である、あるいは突発的な行動を起こす「多動性・衝動性優勢型」と呼ばれる種類などがあります。1つの症状だけでなく、多動と衝動性の症状が見られるというように、症状が複数重なる混合型の子どももいます。また、ADHDには随伴症状も存在します。不注意や多動性という症状のために授業をきちんと受けられず、勉強に集中することができないことから学習の遅れも生じやすいとされており、ADHD患者の約30%は「学習障害」が見られます。

 コミュニケーションが苦手なことも特徴に挙げられます。

 ADHD患者は、感情の自制が難しい場合もあり、友だちとの関わりの中で必要な社会的スキルが身に付いていないことから、正しい集団行動をとることができない場合もあります。クラスメートとのトラブルがきっかけでかんしゃくを起こすこともあり、加えて、提出物などの忘れ物が多くなるため、担任の先生から叱られることも多くあります。繰り返し叱られ、さらに対人トラブルで悩んでいたりすると、子どもが劣等感を感じることにもつながります。もちろん健康な子でも、2歳頃までは活動的でじっとしていられません。個人差はありますが、活発な行動や騒々しさは、4歳までは大概の子どもにはあるものです。この年代の子どもでは、このような行動は正常で、子どもは大なり小なりその傾向があるものです。

 しかし、ADHDの場合は、それが病的なレベルに達するのです。ADHDの子どもの多くは、7歳以前からなんらかの症状があることが多いようです。ADHDと診断された男子の数は女子の4倍くらいいると考えられ、男の子がより多く発症しますが、その理由ははっきりわかっていません。有病率は3〜5%とされていて、これはどのクラスにも2〜3人はいるという計算になりますが、日本では最近まであまり問題視されなかったため、「治療をすべき対象である」という考えが親にも学校関係者にも、あまりありませんでした。

 周りの大人が気をつければ、保育所や幼稚園、小学校入学後の低学年の段階で気付かれることが多いのですが、「元気のいい子」などと、肯定的な評価を受け、見過ごされることも少なくありません。とくに「不注意優勢型」と呼ばれる、不注意が目立ったり、ぼんやりとして集中できなかったりはするけれど、他人にはあまり迷惑をかけないタイプの子どもは見逃されやすいようです。

小学校入学をめどに

 最近の研究では、この障害は「脳の一部の機能不全」とわかってきました。

 脳の中で隣り合う神経同士が、情報のやり取りを行う手段である神経伝達物質(神経刺激を次の神経に伝える物質)の必要量が不足してしまい、その結果、右前頭葉皮質(認知行動や人格の成り立ちに関わりが深く、社会的規範に則った振る舞いが行えることにも関係する部位)などがうまく機能できず、多動が生じるという説があります。

 「脳の病気」というと、生命に関わる重大な疾患なのではないかと心配になるかもしれませんが、最近ではADHDの研究も進み、薬物治療や行動療法という社会性を身につける治療法などを行うことで、一定の改善が期待できるようです。私としては、「不足しているものを補う」程度に考え、得られる結果(メリット)を優先する、くらいの気持ちでよいのではないかと思っています。

 症状の表れ方には個人差が多く、子どもの行動を普段からよく観察し、病院での診察では、「ADHDであるのか、ないのか」「特徴的な症状にはどのようなものがあるのか」などを総合的に判断していくことが重要となります。小学校入学を迎えた児童期になると、ADHDの特徴的な症状がさらにいっそう目立ちはじめるようになります。授業をきちんと着席して受けられずに歩き回ったり、注意力が散漫となったり、他の子どもは普通にできることがADHDの子どもではできないのです。加えて、学習の遅れが表れ始めることもあります。

気になるなら受診を

 子どもが成長していくにつれ、他の子どもとの差を感じるようになったり、日常生活に問題が現れたりして、気になるようならば一度専門の医師の診察を受けてみてはいかがでしょうか? 地域差はありますが最近では、児童心理を専門とした小児科クリニックを多く見かけるようになりました。

 実際の診察では、子どもの日頃の様子や、どんな問題行動があるのか、今までの育児で困った経験がなかったか、あればそれは一体、どのようなものだったかなどを、話を聞いて確認していきます。

 ADHDの症状には、一人ひとり大きな違いがあるので、気になることがある場合は、どんなにささいなことでもメモを取るなどして医師にきちんと伝えるのが大切です。

 場合によっては身体検査や知能検査、幼稚園や小学校などの教師からの情報を調べることもあります。また、子ども本人との面談も行い、総合的な検査が終わった後に最終的な診断が下されます。

 現在、一番治療に効果があるとされているのは薬物治療です。薬物療法と周りの大人の接し方の工夫との組み合わせが、最も効果があることが明らかになっています。

 薬物療法として現在使用可能なのは塩酸メチルフェニデート(商品名=コンサータ)とアトモキセチン塩酸塩(商品名=ストラテラ)の2つで、6歳から18歳までに使用が可能です。これらの薬剤はすべての患者さんに効果があるわけではありませんが、多動・衝動行為の劇的な効果をあげる場合があります。副作用としては食欲不振、不眠などがあり、副作用の程度を見極めながら、最適な用量まで増量することが大切です。

 治療を開始するまではじっとできずに、学校の授業も着席していることが困難だった子どもでも、投薬を開始してからは嘘のように落ち着きが見られ、静かに勉強に集中できるようになったという体験談をよく聞きます。

 周りの大人の対応については、個人差がありますが、叱ってもかえって逆効果になることが多いため、子どものできることをできる範囲で努力するようにわかりやすく指示し、それを達成したら時間をなるべくおかずに褒めるということが大切なのです。

 それでは次回は大人のADDについて説明したいと思います。(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2010.8.11]