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〈本の紹介〉 N戦争と戦後を生きる 全集 日本の歴史(全16巻)

被圧迫民衆の苦難の視点

 この本の読後感は、こういう日本現代史もあるのか、という感嘆であった。歴史書は概して、支配階級が引き起こす重大事件や時には民衆の動向の解説ないしは解釈をもとにして著者の歴史観を開陳するというような、言わば骨格≠ェ主となる形式のものが多い。

 しかし本書は、国家総動員の戦争の時代と米軍占領下およびサンフランシスコ平和条約締結以後の時代を生きた人々の生の声−聞き書きと彼らが保存した手紙・日記・手記―を多用して、骨格≠ノ見事に肉付けしている。

 そのために、時には川柳や短歌を混え、写真を適切に利用して、日本が「満州国」をねつ造しアジア侵略の暴挙を犯しやがて敗戦するという必然性を極めて平易な叙述をもって読ませる≠ニいう歴史書に仕上げられている。

 著者の日本史観の卓越性は、かつて日本が侵略戦争の正当化に用いた「大東亜共栄圏」の国々の被圧迫民衆の苦難の視点から、日本人としての贖罪意識を込めて日本の現代史にアプローチしているところにある。本書で論及されている朝鮮問題、在日朝鮮人問題を要約してみると次のようになる。

 @創氏改名をはじめ皇民化政策と虐待への批判A強制連行の経緯と悲惨B「従軍慰安婦」の非人道性C8.15解放の意義、米軍政による人民委員会の解散と分断を主導したアメリカの責任D済州島4・3蜂起の必然と弾圧における米軍の役割E南朝鮮単独選と「大韓民国」成立の経緯の不自然F朝鮮民主主義人民共和国の成立と民主改革G朝鮮戦争と日本の参戦の実態−後方基地・軍人の参戦・特需景気−H巨済島の捕虜虐待と彼らの反米闘争I在日朝鮮人の法的地位の不法性の指摘J朝鮮人連盟結成の意義と在日朝鮮人運動の発展、朝聯強制解散の無法K民族教育の権利擁護と阪神教育闘争にみる弾圧の不当L枝川における在日同胞の生活権擁護のたたかいと枝川事件に象徴される日本当局の敵視政策の暴露M布施辰治弁護士と在日同胞の権利擁護闘争。

 在日同胞の問題は、とくに、「朝鮮学校の叢生と在日朝鮮人への処遇」および「東京枝川の生存の歴史」という2つの項目を設定して詳しく論じている。朝鮮学校開校とその重要性を強調し、米占領軍と日本当局による不当な弾圧を批判する著者の論究は、今日の高校授業料無料化から朝鮮学校を除外する策動の根源を抉り出している。そして、枝川の同胞の歴史を温い筆致で紹介する著者のヒューマニズムの精神には在日の一人として敬意を覚える。

 在日朝鮮人問題をこれほどにも重視し好意的に記述した日本現代史は他に類例がない。本書が一人でも多くの同胞に読まれることを念じてやまないゆえんである。(大門正克著、小学館、2400円+税、TEL 03・5281・3555)(卞宰洙・文芸評論家)

[朝鮮新報 2010.8.6]