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〈みんなの健康Q&A〉 加齢と健康寿命(下)−現象と対策

 Q:最近アンチエイジング(抗加齢)という考え方が広まっていますが、どのようなものですか。

 A:老化にともなうさまざまな問題を解消したい、いつまでも若いままでいたいと思うのは、誰もが持つ自然な願いです。医学の進歩により老化の仕組みが徐々にわかってきており、医療的に介入することで老化を防ぐこと、つまりアンチエイジングが注目されるようになってきました。

 しかし、抗加齢志向は老化現象を悪だと決め付け、何とか逆らおうとする考え方が前面に出ていて、いつまでも若々しくいたいと願う人々の心理を巧みにとらえて、科学的根拠に乏しい商品を売るために利用されているように思われます。

 先端医療として、きちんと効果があるか、また副作用がないかを調べているところもありますが、十分な検証のないまま関連商品が販売されていたり、医療的行為が行われていることが多いようです。

 一方で、抗加齢療法が裏目に出て健康被害などのよからぬことが起きても、規制が十分に行き届いていないため、どう対処してよいのかわからないという事態がみられます。

 Q:たとえば、美肌に良いとのことでコラーゲン入りの商品が大々的に宣伝されていますが、効果はあるのですか。

 A:テレビや新聞広告でさかんに宣伝されているのが経口コラーゲン商品です。コラーゲンは皮膚や筋肉を支える重要なタンパク質のひとつで、皮膚のたるみをおさえ、緊張を保つ役割があります。

 コラーゲンのおかげで確かに美肌が保たれるといえますが、コラーゲンを口から体内に取り込んでも皮膚を支えるコラーゲンが増える証拠はありません。コラーゲンが飲食物として体の中に入っても、胃腸でタンパク質として消化され、いったんばらばらに切り刻まれてしまいます。これを体が再びコラーゲンとして吸収して肌のたるみを改善してくれるかといえば、残念ながらそうはなりません。

 Q:しわ取りにボトックス注射が流行しているそうですが、どのようなものですか。

 A:ボツリヌス菌の毒素の粉末を生理食塩水に溶いて注射するというものです。もともとは斜視や顔面痙攣に対して医療上行われてきた方法です。美容のために用いられるのは、毒素の刺激を受けた皮膚や筋肉の神経が麻痺することで「皮膚の縮み」すなわちしわやたるみが取れるという効果のためです。簡単にしわ取りができるということで話題になっていますが、現状は9割以上で、海外からの未承認薬が使われているとのことなので注意が必要です。また、効果は3〜4カ月と一時的であり、逆にこの治療による健康被害が国内外で報告されていて、何らかの副作用を発症した人の率は約 14%です。たとえば、まぶたが完全に閉じず、目をつぶることができなくなった、両眉がつり上がり目が下に垂れたままになった、呼吸困難におちいった―などなどです。

 Q:避けることのできない生理的な老化は仕方がないとして、健康寿命を長くするためにはどのようなことが大切ですか。

 A:病気による老化促進をできるだけ遅らせ、自立した生活を維持するためには、糖尿病などの生活習慣病と認知症の予防が最も重要になります。そのためには、適切な食生活、運動習慣が最も有効な方法であり、ストレスの少ない明るく前向きな生活が望まれます。こうした基本的なことも守らないで、健康食品やサプリメントなどに走ってしまうのは、本末転倒と言えます。

 Q:ウィズエイジングという言葉が最近提唱されているようですが、どのような考え方ですか。

 A:加齢してゆくというゆるぎない事実を真正面から受け止めたうえで、老いを恐れず積極的かつ継続的に活動することにより、心身はさらに成長を続け、経験的認知力が発揮される、というのが基本的認識で、いわば向加齢ですね。

 年齢を積み重ねることによって得られるものは大変貴重であり、身体や精神機能が変化したことで逆に人生経験として深みを増す要素も生まれます。老いに対抗するのではなく、それと上手に付き合いながら、老化による変化をその人の個性と受けとめるのです。

 病的な若返りを追うのではなく、年の功を誇り、高齢化社会において自立した日常生活のできる喜びを享受することが大切なのではないでしょうか。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2010.7.7]