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〈渡来文化 その美と造形 19〉 藤ノ木古墳−金銅製冠

金銅製冠(冠帯は広帯型で長さ52センチ、立ち飾りは樹木型で高さ35センチ、金銅製、6世紀後半)

 藤ノ木古墳の冠は、今は緑青のためその輝きは失われてはいるが、製作当時は全体が金色に輝き、取り付けられた歩揺の輝きと薄い金属の触れる音色、宝石製の勾玉などの装飾が、それを身に付けた「貴人」に対する計り知れない畏敬の念を人々に抱かせたことが容易に想像できる。

 冠は頭の周囲を巻く鉢巻状の帯・「冠帯」と、それに取り付ける「立ち飾り」で構成される。冠帯には広いものと狭いものとがあり、立ち飾りは、山形や漢字の「出」の字、「山」の字の積み重ねた形などがある。立ち飾りにさまざまな歩揺や勾玉などが付けられる。

 藤ノ木古墳出土の冠は、冠帯の前面に二つの「山」があり、それぞれに立飾りが付いている。

 冠帯の中央に鳥形金具が付き、透し彫りなどはない。帯の周縁部には波状列点文が彫刻されている。この文様は朝鮮半島から伝わったもので、日本では、初期の金銅製武具や冠などの装身具、後に馬具や武具などに彫刻された文様で表れる。また、帯には心葉形や鳥形の歩揺が付けられている。

 前面の二山の立飾り金具は、全体に鬼面を抽象的に表現されており、中央に蓮華座があり、その上に華瓶が表現され、そこから蓮華や九葉の唐草文が伸び、その左右に半唐草文が二重、三重に伸びている。下半部の文様は、逆方向の唐草文の左右に、二対の半唐草文が伸びている。

心葉文を中心として左右に蕨手状の唐草文様が伸び、その先端部に鳥形が装飾され、その間は剣菱形草花の文様で埋められている。これらは透彫りされている。

 鳥形文様は左右の立飾の先に九羽ずつあり、そのほかにも、歩揺として約20羽が取り付けられている。この鳥形文様は、羽根の部分は蹴り彫り(三角形の点を繋いで線に見せる技法)で、鳥の目と輪郭を強調する部分は丸鏨で、それぞれ刻み込まれている。

 冠帯の中央に鳥形の装飾を持つ形式は、朝鮮三国や伽耶に共通する。鳥は、古代朝鮮では現世と来世とを結ぶ使者と考えられ、神聖視された。

 この鳥形は唐草文から発展したもので、その原型としては百済・武寧王陵の王妃の飾り金具が挙げられる。また、鳥形文様のある金属製品としては、新羅・瑞鳳塚出土の金冠などがある。

 藤ノ木古墳の冠にはまた、蕨手状に変化した唐草文の上に、花托状の立ち飾りに三山形が表現された装飾文様がある。この文様の祖形は伝慶尚道出土の伽耶の金銅冠に求められる。

 このきらきらしい冠を頭に戴く貴人の姿は想像するだけでも目にまぶしい気持ちになる。(権仁燮 大阪大学非常勤講師)

[朝鮮新報 2010.6.28]