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〈本の紹介〉 大世 チョン・テセ BIG WORLD

「矛盾」こそが魅力の原点

 在日同胞で今もっともホットな人物と言えば、本書の主人公・サッカー朝鮮代表の鄭大世だろう。

 16日(日本時間)の明け方に行われたW杯のブラジル戦で「世界デビュー」を果たしたパワフルなストライカーは、どのようにして生まれたのか。タイトルそのままに、テセの成長過程と人間的魅力にスポットが当てられている。

 朝鮮大学校卒のJリーガーは、抜群の攻撃力を誇る川崎フロンターレの点取り屋に成長し、朝鮮代表でもエースとして活躍するまでに階段を駆け上がったが、そこに至るまでには少なくない挫折と失敗を乗り越えてきた。

 プロ選手には手が届きそうにないとあきらめにも似た不安を抱えていた学生時代、プロになってからは試合に出られない焦燥感を感じ自分を追い込み続けた。幼い頃からの夢だった朝鮮代表に選出されてからは、理想と現実のギャップに悩み苦しんだりもした。

 しかしそのつど支えてくれたのは、周囲の人たちの声だった。ポジションを約束されたJ2のチームに入団するか、試合に出るためには超えるべき壁が多い川崎を選ぶかに迷った時、背中を押してくれたのは愛知中高高級部サッカー部の監督だったし、朝鮮代表での尊大な態度が問題になった時に叱責し諭してくれたのは、母であり、在日朝鮮人サッカー関係者だった。時には耳に痛い言葉をもすぐに咀嚼できる素直さが、テセの伸びしろの原点なのかもしれない。

 著者は言う。「鄭大世は数々の矛盾を内包している存在だ。豪胆だけど繊細。怒りを爆発するけど、よく笑う。簡単なパスを見逃したりするが、誰もが不可能と思うゴールを決める」(プロローグより)。そして、外国人登録証の国籍欄は「韓国」なのに、朝鮮代表だ、と。その「矛盾」こそが、人々を惹きつけるテセの余りあるおもしろさを生み出しているのだろう。(森雅史著、小学館クリエイティブ、TEL03・3288・3761、1429円+税)(茂)

[朝鮮新報 2010.6.18]