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〈本の紹介〉 「在日一世が語る戦争と植民地の時代を生きて」

次世代への貴重な贈り物

 「団塊の世代」にあたる筆者も含めて2世以下の「若い世代」は、日本帝国主義の植民地支配や戦争がどのようなものかは、知識としては知っていても直接体験していないために実感がわかない。その感覚は世代を下るほどに1世のそれとはさらに遠くなる。そうした意味でも本書は、歴史研究者である在日1世が「韓国併合」100年にあたる節目の年に若い世代に贈るすばらしい歴史教科書であり、貴重な証言でもある。

 本書は、「失われた祖国」「流浪の地、満州で」「植民地『満州国』の実態」「過酷な植民地支配の下で」「激しい収奪と抗日武装闘争」「山口淑子・李香蘭さんのこと」「戦時下の金沢での青春」「解放前後の日々」「忘れ得ぬ人びと」の9章と終章「母なる祖国の統一を求めて」から成る。

 各章では、時代、内容別に著者の波乱に満ちた人生の重要な局面やエピソードが生き生きと語られているが、それは単に個人の体験の世界に留まらず、その意味を過去と現在を自由に行き来しつつ立体的な歴史的視座でみごとに映し出す。

 祖国を失った民の悲惨な状況、傀儡「満州国」や日本の朝鮮植民地政策、収奪、侵略戦争の実態、解放後の民族教育擁護闘争などについても、歴史学者ならではの鋭い視点と厳密かつ適切な分析・評価がなされている。それらの一つひとつがまた臨場感があるため、若い世代にとっては「知識」や「過去のできごと」としての歴史が身近な話として迫ってくるものがある。整然とした論理とともに柔らかく洗練された文章も手伝ってか、内容は重くとも読み手の心をしっかり掴む。

 本書の貴重なところは、日本支配層の歪んだ歴史認識や虚言を説得力をもって批判している点にもある。福沢諭吉らのイデオロギー的源流からA級戦犯・岸信介や孫の安倍晋三に至るまで批判の切り口は鋭い。

一方、学生時代に経験した徴兵への恐怖と苦悩、治安維持法違反容疑で憲兵に逮捕・拘禁され、死を覚悟した話は心を揺さぶる。

 歴史に名を残した人びととの貴重な出会いの回顧も本書の大きな魅力である。とくに、植民地時代にビナロンを発明した李升基博士との出会いとエピソード、博士の「価値ある人生」にはいたく感動した。また、筆者も一度お会いしたことがある、国平寺を開山した柳宗黙禅師との出会いの中で、朝鮮王朝最後の皇帝・純宗の皇太子・李垠と日本皇族で政略結婚した夫人・李方子の二人に禅師が話した内容には正直、驚かされた。

 「あなたは、11歳の時、伊藤博文に人質として日本に連れていかれたから、朝鮮を滅ぼした直接の罪はない。しかし、わが民族が受難の道を歩んでいる時に、あなたは王族の待遇をうけ陸軍大将にもなり、惨憺たる民族の苦しみをよそに、日本帝国の庇護をうけながら安穏に暮らしていた。このことをあなたは自ら深く省みなければならない」と。

 最後に著者は、人生を振り返って何ものにも代えることのできない貴重なものは祖国とし、祖国統一のために全力を尽くすことを誓っている。同胞とともに日本の読者にも一読を薦めたい。(白宗元著、岩波書店、TEL03・5210・4000、2100円+税))(崔鐘旭、ジャーナリスト)

[朝鮮新報 2010.6.18]