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〈渡来文化 その美と造形 16〉 藤ノ木古墳−馬具

馬具(奈良県斑鳩町、6世紀後半、後輪=幅57センチ、高さ43センチ、帯先金具蛇尾・ホ具)

 日本における乗馬の習慣は朝鮮からもたらされたものである。当然、乗馬のための道具である馬具には朝鮮三国との関係が深く刻まれる。

 一般に古墳から出土する鞍の本体は木製であるが、その強度を保つために鞍橋を金属板で覆う。これを鞍金具といい、前輪と後輪からなり、それぞれ覆輪、海金具(把手下・左・右)、磯金具の部分で構成される。

 奈良県斑鳩町にある国指定史跡の藤ノ木古墳には、金銅装と鉄地金銅張の二種類の馬具が副葬されていた。

 金銅装鞍金具には、龍、象、鳳凰や鬼神、忍冬唐草文などが透し彫りされている。

 前輪(幅51センチ、高さ41.5センチ)と後輪(幅57センチ、高さ43センチ)には亀甲文の中に透し彫りされた龍、鳳凰、獅子などがほぼ左右対称に置かれ、その周りを兎などの小禽と忍冬唐草文などが取り巻いている。

 後輪に透し彫りされた鬼面は、法隆寺金堂内の多聞天が踏みつけている邪鬼と表情が極めてよく似ている。多聞天像の光背に百済渡来の技術者名が刻まれていることはすでに述べた。

 把手下に鬼神像がある。右手に環頭大刀を、左手に斧を持ち、牙をむき出した、いかにも恐ろしい姿形をしている。このような表現は朝鮮三国の鬼瓦に多数見られるものであり、持ち物の環頭大刀や斧も高句麗の古墳壁画に多数見られる。

 把手が三本あり、中央の支柱を鬼神が咬み支える。把手を三本の円柱で支える形式の鞍金具は、新羅・皇南大塚(5世紀末〜6世紀初)から出土している。皇南大塚の把手は玉虫の羽を貼り、唐草文様を透し彫りしている。

 象の形象があるということが大いに話題になったが、朝鮮にも例がある。百済・扶余の扶蘇山廃寺からは黄緑のうわ薬を施した陶製の象形が、新羅・雁鴨池からは舎利容器を背中に乗せた象の彫刻品が出土している。

 鞍金具に透し彫りされた鳳凰は、それぞれ二羽ずつである。鳳凰の透かし彫りは高句麗真坡里七号墳の金銅製品(冠帽型)などが知られる。

 亀甲繋ぎ文の内に花柄、鬼、禽獣などを描く方式も朝鮮から渡来のもので、百済武寧王陵出土の木製の枕と足置きに描かれたものが有名である。薄い銅板に彫刻を施す技量、精巧な文様彫刻の表現、題材の豊富さなど、渡来文化の高い美的感覚を感じさせる鞍である。(権仁燮 大阪大学非常勤講師)

[朝鮮新報 2010.5.24]