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〈本の紹介〉 ヘイト・クライム−憎悪犯罪が日本を壊す−

「社会壊す動きを止めよ」

 「ヘイト・クライム」(憎悪犯罪)−人種、民族、宗教などの国民的な差異をことさらターゲットとして行われる差別行為、そうした差別の扇動を指す。

 日本ではあまり聞きなれない言葉だが、有色人に対する人種差別事件や、同性愛者に対する偏見・蔑視から起こる暴力事件など、とりわけ米国社会では根深い問題となっている。

 日本国内においても2009年以降、外国人に対する意図的、組織的な差別が行われ、その被害は深刻化しているといわれている。

 例えば、「高校無償化」法案からの朝高除外や、各地で噴出する「在特会」の暴力的行為などの排外主義がインターネットを通じて呼びかけられ、悪質化の度が増している。

 本書は、09年に表面化したヘイト・クライム現象に焦点を当てて、日本における人種主義と人種差別の問題について検討し、社会全体として取り組むべき課題を明らかにしている。

 著者は、「本書は、日本における人種主義と人種差別の現状を踏まえ、人種差別禁止法の制定が必要であること、とくに人種主義に基づいて憎悪を煽るヘイト・クライムの法規制が不可欠であることを明らかにしている」と指摘し、その理由を「ヘイト・クライムは社会を壊すからだ」と警告する。 

 構成は、第1〜6章。@京都の朝鮮学校事件に見られる典型的な朝鮮人差別や外国人に対する迫害、排外主義の諸現象を取り上げ、この現象をめぐる日本社会の反応を確認するAそれ以前から長期にわたって継続してきた朝鮮人差別を、日本政府による差別と、日本社会における差別に分け、それぞれ明らかにしていくBヘイト・クライムの極限とも言うべき関東大震災時の朝鮮人虐殺を、ジェノサイドと人道に対する罪という観点から検討し、世界史の中におけるコリアン・ジェノサイドについて考えるC人種差別撤廃条約を中心とする国際的取り組みをフォローし、さらにダーバン人種差別反対世界会議の成果文書であるダーバン宣言を一瞥して、人種差別とのたたかいを考えるDヘイト・クライムを禁止する刑事規制に焦点を当て、英米法におけるヘイト・クライムの状況や、人種差別撤廃委員会によるガイドラインを紹介するE日本における人種差別禁止法についての議論を踏まえて、人種差別禁止法制定の課題を探る。

 ヘイト・クライムを放置すると、差別は激化し、社会から信頼や連帯は失われ、公正、自由、権利、尊厳といった価値や理念も損なわれる。そこに残るのは、侮辱、破壊、敵意、憎悪、不正の感情だけである。そんな感情が蔓延した社会は、当然、崩壊していくだろう。

 差別の深刻化にストップをかけるために、私たちがいかに取り組むべきかを考える一冊。(前田朗著、三一書房労働組合、1300円+税、TEL 03・5433・4231)(姜裕香記者)

[朝鮮新報 2010.4.23]