〈みんなの健康Q&A〉 根拠のない自信(下)−心得とアドバイス |
今回は新入社員の心得と言いますか、いくつか気をつけるべき点を挙げてみましょう。 @まず、「あいさつ」はコミュニケーションを取る基本になりますので、人からされるのを待つのではなく、自分から率先してあいさつしていくような心構えをもちましょう(タイミングを逃すと、意外としにくいものになってしまいます。ですから「あいさつは先手必勝」です)。また、相手からあいさつをされたときには、躊躇することなく返してください。 A次には「ホウレンソウ」を徹底しましょう。ホウレンソウとは「報告・連絡・相談」のことです。仕事上、何かあったときには上司へ速やかに報告をし、そしてその仕事に関係する部署や同僚に連絡をし、自分で解決ができない場合には相談をするようにしましょう。このホウレンソウを徹底することで、組織の中で情報を共有して取り組むことができるようになります。とくに新入社員はホウレンソウを徹底する心構えがとても大切なのです。 B日頃から「風邪をひかない」努力を心がけましょう。風邪は一年を通して罹る病気です。学生時代なら数日休んでも友だちにノートを写させてもらえば事足ります。しかし、社会人ともなれば違ってきます。社会人は基本的には月給制です。休んでいる間も給料が発生するわけですから、体調管理は社会人としての心構えの第一歩です。予期せぬ病気は仕方のないことですが、「二日酔いで体調不良」などは言語道断です。 Cそれから、「遅刻は絶対にしない」ことです。学生の頃は多少のペナルティで許されたかもしれませんが、新入社員として社会人になれば、遅刻は絶対に許されません。遅刻をする人に大事な仕事を任せることはできないでしょう? たとえば、大事な商談があったときに遅刻をしてしまうかもしれない、などという考えができてしまうからです。そんなときに遅刻してしまうなど、もってのほかのことなので、遅刻は絶対にしない心構えが必要です。ですから、会社には最低でも15分前に着くよう心がけましょう。 D新入社員はわからないことだらけです。それはもちろん新入社員ですので当然です。しかし、わからないのにわかったふりをすることはしてはなりません。わからないのであれば、理解するまで聞きましょう。そうすることにより仕事で失敗をする回数も減らすことができるでしょう。しかし、聞かれる社員もあなたと同じように自分の仕事を抱えているはずです。質問の仕方にも配慮が必要です。相手が今どういう状況にあるのか、を判断して質問するようにしましょう。 Eまれに新入社員の中には、「失敗をして当たり前」と考えている人もいますが、取り返しのつかない失敗をしてしまうと大変です。ですから、「失敗をしないような心構え」をもつことも大切なのです。たしかに新入社員のときはミスをすることは多々あることです。それは何も知らないのですからあたりまえのことなのです。それは、上司や先輩もわかっていることですから一度目は、深刻なお咎めはない可能性が高いのでしょうが、これが二度、三度ともなると話は違ってきます。一度失敗をしているのですから、そのことについては、すでに知っていることになるので、それとまた同じミスを繰り返すようなことはやってはいけません。同じ失敗を繰り返さないような心構えを持ちましょう。 上司へのアドバイス 今回は新社会人へのアドバイスを中心にしてきましたが、最後にそれを受け入れる側へのアドバイスなどをしたいと思います。 現代っ子の扱い方は難しいようです。前回も説明したように「叱ると萎縮する・根拠のない自信・やりたいことが自分でも解らない」人が増えているのは現代人の特徴かもしれません。それではいかにして、この若者たちを指導するかが問題になってきます。 「指導」を別な言い方にすると「いかにして、彼らに仕事をさせるか」と言い換えることができるでしょう。 ヒントの一つに、「モチベーションをいかにして持たせるか?」をあげることができます。モチベーションをもたせるためには、その仕事を本人に「愛させる」ことです。 難しく思われるかもしれませんが、まず状況を把握させ、ある程度の裁量権を与えることが大切です。「裁量権」とは「あらかじめ範囲を決めて、責任を持たせて自由に仕事をさせる」ということです。本人に「やらされている感」をもたせるのではなく、自ら「やっている感」を抱かせることが大切なのです。当たり前のことでしょうが、「やらされている」と感じていては、モチベーションはなかなか上がらないものです。中でも時間的裁量権(具体的に言えば出勤・退勤・残業は必要に応じて、ある程度本人に任せる)と達成感(自分が関わった仕事をやり遂げ、それを他者から評価される)をえることが大切です。たとえば、「君がこの仕事で、ここをこう工夫したから良かった」「君の能力に期待しているよ」などと誉めれば良いのです。 逆に一番効果の低い(持続しない)インセンティブは意外にもボーナス・臨時収入なのです。お金は一度手にしてしまうと、次ももらえると期待しがちとなります(早期に麻痺してしまいます)。逆に自分で成功したと思っていても金銭のインセンティブだと、お金をもらえないと不満、と感じてしまいます。 われわれ医師の仕事は責任も重大で、とても楽ができるような仕事とは言えません。専門にする科目にもよりますが、医師の月の平均残業時間は1カ月に100時間をオーバーすることも珍しくありません。一般のサラリーマンであれば、1カ月の残業時間が100時間を超えると、1〜2カ月以内に産業医の面接を受けることになるでしょう(鬱病の予防として一定規模の会社では、ある程度の残業が続くと産業医の面接が義務づけられているのです)。 しかし、医師は過労が原因する鬱病などの精神疾患は一般より低いと言われています。それではなぜ医師が一般よりも鬱病を代表とする病気にならないで済むのでしょうか? そこにはいろいろなファクターがあると思いますが、大きな要因の一つに「仕事に対するモチベーション」が平均的に高いことが上げられるからかもしれません。例えば、患者さんから病気が良くなったと感謝されたり、10時間にもおよぶ大変な手術でも成功したりすれば、看護師たちと共に喜び合い、疲れも吹っ飛んでしまいます(肉体的にはボロボロですが…)。 誤解を招くかもしれませんが、このときの感情は「快感」に近いものなのかもしれません。この快感という感情は金銭のように麻痺することはなく、むしろ求めるようになるからこそ、医師という困難な仕事を続けることができるのではないかと私は考えています。 このように新入社員も、上司がそれぞれの個性を理解し、ちょっとした工夫や対応で新入社員の能力を伸ばすこともあれば、一方的に「つべこべ言わずに、俺の言ったとおりにやりなさい!」などと言って、部下の達成感どころか、やる気をも奪ってしまうこともあるのです。社会人1年生たちのために、このような環境作りをしてあげることは、人生の先輩である私たちベテラン社会人の役目なのではないでしょうか。(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/) [朝鮮新報 2010.4.14] |