〈みんなの健康Q&A〉 メタボリックシンドローム(下)−予防と対策 |
Q:メタボリック症候群(メ症候群)に打ち勝つため、食事習慣において大事な心構えはどのようなことですか。 A:摂取カロリーを減らすためといって単純に食事を抜く人がいますが、一時的に減量が必要なスポーツ選手ならともかく、一般人においては日常的にはすすめられません。特定の栄養素、ビタミンあるいはミネラルに偏ることなく栄養バランスを考えた食事をきちんととることが、体調管理という意味でも大切です。そのうえで、自分の判断で結構ですから腹八分目を心がけてください。もう少し食べられるかな、というところでやめるのがちょうどいいでしょう。次に心がけるべきことは、食事にゆっくり時間をかけることです。早食い、まとめ食いをせずに、時間をかけて食物をよく噛むということが重要で、それにより唾液分泌が促進されます。唾液には消化酵素が含まれていて消化を助ける作用があり、同時にまた、よく噛むことで顎の筋肉の動きが活発になり脳にも良い刺激を与えてくれます。消化がよくなると、少食でも満腹中枢が刺激されるため満足感が得られるという好循環をもたらします。精神的ストレスから大食いに走ってしまうことがありますので、そういった面の対策も必要です。 Q:小腹がすいたり、友人と会ったりするとついつい間食をしてしまいますが、注意すべきことはどのようなことですか。 A:ある程度は仕方のないことですが、間食や食後のデザートとして油で揚げたスナック菓子、ケーキ類やアイスクリームを毎日のように食べている、というような状況はよくありません。また、間食が多いと食事時間になっても空腹感がなくなり、食事時間が不規則になりがちで、しっかり食べることができないため栄養バランスが悪くなります。 Q:食事時間について、とくに注意しなければならないのはどのようなことですか。 A:これは人によって生活様式がちがうので何時に食事をしなければならないと一概に決めつけることはできません。規則正しいにこしたことはありませんが、朝食抜きや就寝直前の飲食は肥満のもとですので気をつけてください。減量のためにわざと朝食を抜く人がいるようですが、その効果にははなはだ疑問があります。寝る前と違って、朝食の後には必ず何らかの身体活動があるわけですから、食べてもそのエネルギーは消費されやすく、余分な脂肪はつきにくくなっています。一日2食だと食事の間の時間が空くため、けっこうおなかがすきますし、食事時間が不規則になり、かえって食事量が多くなってしまう傾向をもたらします。そのため体内での脂肪の合成が盛んになり、食べたものが脂肪としてつきやすくなります。 一日の総摂取カロリーとして、標準体重(キログラム)×30ぐらいが適当と推奨されています。食事療法全般については、自分の食生活を見直す意味でも、管理栄養士による栄養指導を受けることをぜひすすめます。 Q:運動療法がなぜ必要なのか、説明してください。 A:人間はたとえ安静にしていても心肺機能をはじめとする内臓や脳・神経系の活動、体温調節など、生命維持のために基礎代謝としてエネルギーを消費します。この基礎代謝を高めることで一日の消費カロリーをより多くすることができます。通常、基礎代謝におけるエネルギー消費が最も多いのは筋肉ですが、訓練をすることでその量を増やすことができるという特性をもっています。だから、筋肉鍛錬で筋肉量が増えれば基礎代謝量の増加が自然と生じ、太りにくい身体になるわけです。一方、人間が一日に消費するカロリーは基礎代謝のほかに日常生活や運動などで消費する生活活動代謝によるものがあります。運動を積極的にすすめることは、筋肉をつけて基礎代謝を高めるというねらいとともに、生活活動代謝量を増やして、一日の消費カロリーを大きくするという目的もあります。 Q:日常生活に取り入れられ、内臓脂肪減少に有効な運動について教えてください。 A:運動時にエネルギーとして使われる脂肪を有効に燃やすのには十分な酸素が必要になりますが、その酸素の供給に見合った強度の運動を有酸素運動といいます。逆にいえば、強すぎる運動はいわば酸欠の状態でエネルギーを産生しなければならず、脂肪を有効に燃焼することができません。日常最も可能な有酸素運動は歩行です。だいたい10分間ぐらい歩くと体脂肪に火がつくといわれています。その他、ゆっくりと時間をかける走り・水泳、自転車なども良いでしょう。特別な運動ではなく、こまめに歩くとか、エレベーターを使わずに階段を利用するとか、こういった活動的生活を毎日心がけることが体脂肪減少に役立ちます。運動習慣がないと血糖を調節するインスリンに対する感受性が低下し、糖尿病や動脈硬化が促進されるのみならず、筋肉が落ちて体型が悪くなり、しわが目立ってしまいます。 Q:上手な歩行、ジョギングの方法を教えてください。 A:急に無理な運動をすると膝や腰を痛めたり、心臓や脳卒中の発作を引き起こすことがあるので、事前に体調検診を受けておくのがよいでしょう。とくに肥満が強く、関節・筋肉に負担がかかりすぎる人は、必ずゆっくり歩行から始めてください。常に運動前後の準備体操、筋肉伸ばしを忘れてはいけません。季節に適した服装で、早朝や帰宅後、あるいは休日の天気のいい日に腕を大きく振ってゆっくり歩くことから運動療法を始めてみましょう。次に少し早足にしてしばらく歩き、気分が乗ってきたらゆっくり、苦しくない程度に走ってみて自分なりの感覚をつかみます。きつければ「100メートル走って、100メートル歩く」を繰り返してもかまいません。はりきりすぎずに、時間をかけて自分の調子で楽しく走ることが大切です。1回30分以上、週に2〜3回続けていくと持久力が向上し、心地よい疲労感を感じるようになります。そのうちに体重が落ち体型も変化します。 Q:水分補給について注意すべきことを教えてください。 A:水分補給は大切ですが、大汗をかく激しい運動をするわけではないので、いわゆるスポーツ飲料で補うことはおすすめしません。カロリーオフと表記されていても実際には多くのスポーツ飲料には栄養分が入っているし、塩分もけっこう含まれています。長時間かけて長距離を走ったり、炎天下で運動したときにはこういった飲料水が必要ですが、そうでなければ水やお茶のほうが適しています。水分補給はのどが渇いたと感じる前から少しずつ何回にも分けて行うことが大切です。汗をかいて体重が減ったことを「やせた」と勘違いする人がいますが、運動直後の体重減少は汗をかいて主に水分が抜けたことによるものですから、体脂肪が減少した真の減量とはいえません。 (金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2010.3.17] |