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〈みんなの健康Q&A〉 メタボリックシンドローム(上)−診断の問題点

 Q:特定健診・特定保健指導が近年各自治体において公費負担で実施されています。

 A:これはメタボリックシンドローム(以下「メ症候群」と略す)に着目して、動脈硬化性疾患たとえば心筋梗塞や脳梗塞などをおこしやすい人を早期にみつけて、生活習慣指導を積極的に推進するための医療行政の一環です。メ症候群は別名「内臓脂肪症候群」とも呼ばれています。これは肥満とりわけ内臓脂肪蓄積すなわち腹部肥満が病態の基盤として考えられているからです。この健診により疾患の予兆を警告し、メ症候群治療を指導しながら個々人の自覚を促し、医療費の大きな比率を占める脳卒中・心臓病を予防することで、増大する医療費を抑制できると想定されています。

 Q:診断基準はどのように定義されていますか。

 A:腹囲すなわちおなかの周囲径が男性85センチ以上、女性90センチ以上であることが必須項目で、かつ「表」にあるような基準を満たすとメ症候群と診断されます。

 Q:この診断基準では、腹囲については、背が低くても高くても同じ基準値がとられていますが、問題はないのですか。

 A:本来なら身長を考慮した基準値が設定されるべきですが、今のところ一定の見解が出ていません。とくに男性での腹囲基準が厳しすぎるのではないか、という指摘があります。実は、米国ではその基準は102センチ以上と日本に比べ甘くなっています。これは、日本人は欧米人に比べ、肥満により病気になりやすい傾向があるという統計的事実から考えられた設定値です。一方、女性の場合は皮下脂肪が多いのでどうしてもへそ周りが大きくなりがちです。メ症候群においてはおなかの中の内臓の周りにつく内臓脂肪が問題なので、女性では皮下脂肪分は上乗せしてゆるい基準にしてあるのです。

 Q:その他の診断項目についても、基準値の問題点が指摘されていますか。

 A:高血圧の基準がWHO(世界保健機関)のそれよりも5〜10ぐらい低く、また、空腹時血糖値も従来の基準より15ほど低く設定されています。健診を受ける際に緊張のため一時的に収縮期血圧が130以上になることはよくあることなので、ふだん日常の血圧がなかなか反映されないのが実情です。さらに中性脂肪に関していえば、もともと数値変動が大きく、150〜300程度では現実的には健康への危険とはなりにくいと考えられています。このへんの基準ぎりぎりあるいは少し超えただけの人が中年男性を中心にかなり存在し、われわれは「ちょいメタおやじ」と呼んでいます。

 Q:判定の数値範囲が広いためにメ症候群予備軍ないしは該当者が増えると、医療上どういう影響が出ますか。

 A:患者数が増加することで医師の負担が増え、生活指導をするより処方箋を発行したほうが手間がかからない、余分な時間をとらないですむ、という考えにおちいってしまいます。また、患者がすぐに薬をほしがる、周囲の人が不安をあおる余計な助言をする、といった風潮も手伝って薬がそれだけたくさん使用されるようになるでしょう。生活習慣を少し見直すだけでよくて、従来薬物療法は行わなかった「ちょいメタ」に対しても、安易に薬を使用する事態が予想されます。メ症候群の治療はあくまで生活習慣の改善が基本です。つまり、食事の内容を見直し、運動習慣を作ることで内臓脂肪を減らし、動脈硬化危険因子を減らしましょう、ということなのです。薬物療法はその後の手段で、食事療法と運動療法が大前提です。安易に薬を用いることで、さらに薬剤費、医療費が増大することは容易に予想されます。

 Q:特定健診結果を受けて、どのような心構えが必要ですか。

 A:そもそもメ症候群は自他覚症状を伴うものではないのですから、生活習慣の改善目標値にすぎないという認識が大切です。個々の検査結果に一喜一憂せずに、じっくりと自らの生活習慣をかえりみて、健康への関心を持ち、疾病予防をしようというのが健康診断を受ける本来の主旨です。

 Q:メ症候群の診断や指導に関して、今後どのようになっていくのでしょうか。

 A:各学会の意見や諸外国でのデータも取り入れながら診断基準は再検討されていくことと思います。現在の診断基準では、日本では成人の10%ぐらいがメ症候群と判定されていて、在日コリアンにおいても同様であったとの調査結果があります。これは人数にすると大変な数になります。一方、メ症候群といわれた人の中でも、本当に病気につながる「本メタボ」は対象年齢層の1%に満たないわずかな人たちであるという主張もあります。また、残りの「ちょいメタ」はちょっと生活習慣を見直すだけでよく、必ずしも不健康であるとはいえない、そういう考え方が主流になるかもしれません。

(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800)

[朝鮮新報 2010.3.3]