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三月三日 春の訪れ−金億−

若葉萌え 蕾膨らむ時季来れば
花の都、歓楽の平壌を忘れるなかれ
緩やかに流るる大同江の
水面に漂う雁たち
綾羅島には
芽吹き始めた枝垂れ柳
ご覧なさい 牡丹峰の麓松の木の下
ためらうように囁き合う
牡丹のような言の葉が
恋人の唇で息を継ぎ
そぞろさ迷う気配を
今日は春訪れし 三月三日、
江南のつばめも
古巣を忘れず 戻り来る日
恋人たちの春は 人の世のみならず!
ご覧なさい、
空のただ中にも 
春の訪れ
1922年6月

 (※朝鮮では「3」は吉を呼ぶ数とされ、旧暦3月3日は吉が吉を呼ぶ、春を知らせる名節とされている。江南へ渡った燕が戻ってくる日、蛇が冬眠から覚める日ともいわれ、この日はつつじの花で餅を作り、弓矢や闘鶏を楽しんだと伝えられる)

 キム・オク(1896〜没年未詳)

 詩人。號は「岸曙」。平安北道郭山生まれ。日本慶応義塾分科にて修業。五山学校で教職に就き金素月を教え登壇させた。東亜日報、中央放送局に勤め、「廃墟」「創造」の同人として創作、外国詩の翻訳を手掛けた。詩集に「海月の歌」「岸曙詩集」「春の歌」「金砂」「東の空が明ける時」「眠らない夜」などがある。(選訳・金栞花)

[朝鮮新報 2010.3.1]