若きアーティストたち(70) |
ヴァイオリニスト 崔誠一さん ヴァイオリン、ピアノ、タンソ(短簫)、ドラム・パーカッション―西洋楽器と朝鮮の民族楽器という異色のコラボレーションで魅せるNeo Art Pop BAND「A's(エース)」。 メンバーは4人。いずれも20代の「在日」である。崔さんはここでヴァイオリンを担当。作編曲も手がけている。 同時に、崔さんはSMAPやaiko、嵐、大塚愛、東方神起、Bjork、IL DIVOなど国内外における数々の有名アーティストのバックストリングスとして、楽曲のレコーディングやコンサート、テレビに出演するほどの実力者である。 ヴァイオリンを手に取り26年。3歳でオモニに連れられ教室に通った。「物心ついたときには常にヴァイオリンがある生活だった。練習は苦手だったから、あんまり好きではなかったけれど…」と笑い、崔さんは遠い日を振り返る。 「継続は力なり」とは今でこそ言えるが、志が同じ仲間が少なく、遊び盛りだった初、中、高時代は「我慢の時期」だったと話す。それでも「表現」することには強い興味を抱き、高校生になると作曲を始めた。
崔さんのヴァイオリンに対する思いを変えたのは、進学先の東京音楽大学の恩師との出会いだった。技術ばかりを重んじるのではなく、恩師は内面から音を出す大切さを教えてくれたという。「僕自身も、何か一つ特化したものを身につけたかったし、それが『音では誰にも負けない、信念を音に込める』ということだった」と述懐する。
大学3年生からは、「在日」の音楽仲間と接する機会が増え、彼らと演奏会を開いたり、朝鮮の曲をレコーディングしたりと意欲的に活動をしてきた。その過程でもっと音楽を理解し、その奥深さを実感していった。それから、「自らいろんなことに挑戦してみよう、誰にもできないことをやりたい」と、ハングリー精神が芽生えていった。 そして05年、自身がフロントマンを務めるバンド「A's」を結成。「A's」というネーミングは、アルファベットの始まりである「A」、アジア(Asia)の頭文字から取り、音楽の原点回帰、国境を越える音楽、大きなプロジェクトに−と名づけられた。ジャンルにはこだわらず、どこにもない、自分たちのアイデンティティを活かせる音楽作りを目指してきた。 崔さんが演奏、作曲に携わるうえで共通して大切にしているのは「魂」。「心に響く音楽はただ並んでいる音ではなく、知らず知らずのうちにそこに込められているスピリットに惹かれていると思う」。曲はふと浮かんでくることが多いが、すぐに忘れてしまうようなものは使わない。一度寝かせてみて心に残ったものだけを曲に起こすという。 そして、その「魂」とは何かと考えをめぐらせたとき、帰着するのは朝鮮民族、「在日」としてのアイデンティティだという。それだけに、「表現したいことを素直に音にすると、自然と音の中にコリアンの色が現れる」。 「A's」は先月末に東京・恵比寿でワンマンライブを終えた。今後、4月には福島、山口でライブを予定している。また現在、夏発売に向けたアルバム制作に取り組んでいる。 当面の目標は、「日本で認められるバンドに成長し、朝鮮半島で凱旋公演を開くこと。想像しただけで心が躍る」と、着実な進歩を遂げるため、日々まい進している。(姜裕香記者) ※1981年生まれ。徳山朝鮮初中級学校を経て05年東京音楽大学音楽学部器楽専攻卒業。同年からヴァイオリニスト、作曲家としてフリーランスで活動。現在、自身が旗揚げしたNeo Art Pop BAND「A's」で活動中。また、国内外の有名なアーティストのバックストリングスを務める。「A's」オフィシャルブログ:http://ameblo.jp/as-sccr/ [朝鮮新報 2010.2.15] |