〈本の紹介〉 近代日本と戦争 |
新たな朝・日関係の起点に いま、「温故知新」、古い物事を調べ、そこから新しい知識・見解を引き出すことが切に望まれている。閉塞感の強い今こそ! 折しも今年は、日本によるあの忌まわしい「韓国併合」から100年になる。この歴史の節目に北南朝鮮と日本、東アジアの関係を見つめなおすべきとの論が、最近少なくない。 19世紀末に米国がハワイ王国を併合して100年後の1993年、米国議会が採択した新たな歴史認識決議にクリントン大統領が署名し、それにもとづき各国との関係を再構築していった前例にもならうべきであるとの論も浮上している。 まさに、このような時期に「近代日本と戦争」が出版された意義は小さくないと思う。 本書は、アジア全体を視野に、日本が明治維新を経て帝国主義化し、10年ごと5年ごとに戦争を起した状況を読み解く。さらに、敗戦から現在までを、実にわかりやすく鋭い切り口でコンパクトにまとめている。本書には三つの特徴があげられよう。 まずは、日本はどうして頻繁に戦争をするようになったのか、日本は勝つはずのない戦争でなぜ勝利し、起きるはずのない戦争がなぜ起こり敗北したのか、などが解明されている点であろう。朝鮮は近代以降、日本の侵略と植民地支配によって最も大きな被害を受けた。東アジア諸国にも多大な戦争の傷跡をもたらした「記憶すべき史実」についても明快に言及している。 本書の特徴二つ目として、近代日本の朝鮮観と対外認識と対処が、どのようなものであり、それが現時点でどうなっているのかなど明快に論証されていることがあげられる。日本は近代に入って西欧とアジアに対して従来とは違う認識を持ちはじめ、対処の仕方も違ってきたが、その内容は何か、今後、何を正していくべきか、史実に根ざして示唆している点は、大いに参考となるだろう。 三つ目の特徴として、日本は8.15敗戦以後いまに至るまで、戦争に巻き込まれなかった稀な国家のひとつとして存在しているが、それはどうしてなのか、掘り下げている点であろう。 本書を読み強く思うのは、朝鮮と日本の過去2000年にわたる関係史は、基本的に善隣交流史であったが、そのなかで不幸な時期は三回あるということである。 1350年から50年間にわたる朝鮮半島への倭寇の侵入。1592年から7年間におよぶ壬辰倭乱、1910年から36年間の日帝植民地化。 いま、東アジア共同体構想が盛んに喧伝されているなかで、日本近代史家の遠山茂樹の有名な言葉「日本人の朝鮮観は、日本人の意識の水準をためすリトマス試験紙」を思い出さずにはいられない。 本書の共訳者のひとり大久保節士郎氏は、医療関係インターネット上でも小児科名医として高名な方だが、北南朝鮮との医学交流と朝鮮語習得に尽力するなかで本書と出会い、真の朝・日親善交流を切望し共訳出版にこぎつけたとのこと。 ある賢者は「大事なのは『世界という鏡』に映った自らの等身大の姿を知ることだ。全てはそこから始まる」との名言を残したが、本書の読者が一人でも多く増えることを願ってやまない。(李盛煥著、都奇延・大久保節士郎共訳、光陽出版社、667円+税、TEL 03・3268・7899)(文弘長 元医協中央副会長) [朝鮮新報 2010.2.12] |