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〈シリーズ・「韓国併合」100年 日本の朝鮮侵略思想を告発 琴秉洞先生に学ぶ−下〉 日朝平壌宣言にもとづき国交を

「関東大震災85周年朝鮮人犠牲者追悼シンポジウム」にパネラーとして出席した琴先生(右端、08年8月)

 琴秉洞先生は、大著「資料雑誌にみる近代日本の朝鮮認識」(全5巻)の最後に、朝鮮総督寺内正毅から内閣総理大臣桂太郎宛の「秘朝鮮総督報告韓国併合始末」「韓国併合ト軍事上ノ関係」を掲載している。よくこのような資料を探し当てたと思う。

 寺内正毅は、その報告の中で「内閣総理大臣李完用ヲ統監邸ニ招キ先ズ帝国政府ハ韓国ヲ擁護センガ為メ既ニ前後二回ノ大戦ヲ賭シ数万ノ生霊ト幾億ノ財帑トヲ犠牲ニ供シ爾来帝国政府ハ誠意ヲ傾ケテ韓国ノ扶翼ニ勗メタリ」と恩着せがましくのべ、「国号と王称」に拘る李完用を言いくるめ、「是レ全ク日本国天皇陛下ノ御威徳ニヨルモノ」と賛美させ「韓国併合条約調印」を成し遂げたことを記している。今年は、その「併合条約」100年の年である 

 朝鮮人民に民族分断の痛苦を強いた朝鮮侵略史を、厳正な史実にもとづいて、学び直さねばならないと思う。民族分断の歴史的根本原因を作ったのは、日本である。今こそ日本は、歴史に誠実に学び憲法前文と9条の精神にたった、善隣友好の平和外交を推し進める平和国家とならねばならない。

 2000年6月15日の新聞は、重大ニュースを報じた。「祖国の平和統一を念願する全民族の崇高な意思により、韓国の金大中大統領と朝鮮民主主義人民共和国の金正日国防委員長は歴史的な対面と首脳会談を行った。南北首脳は分断の歴史上初めて開いた今回の対面と会談がお互いの理解を増進させ、南北関係を発展させ、平和統一を実現させる重大な意義を持つと評価」し、「南北共同宣言」を発表した。その第一で「南北は国の統一問題を、その主人である我が民族同士でお互い力を合わせ、自主的に解決していくことにした」と述べている。

 また、02年の日朝平壌宣言では、第一に「双方は、この宣言に示された精神及び基本原則に従い国交正常化を早急に実現させるためにあらゆる努力を傾注することとし…強い決意を表明した」と報じた。これは、画期的な歴史の幕開けになるはずであった。

 しかし、日本政府は、ここでも、米国の虎の威を借り、米国の朝鮮敵視政策を背景に、自らの歴史的犯罪行為を棚上げ不問にし、逆に「拉致問題」をだして日朝国交正常化の道を破壊してきた。日本は、今こそ、「日朝平壌宣言」に立って国交を正常化せねばならない。日本政府は、「韓国併合」条約(1910年8月22日)を正当化してきたが、これからも、この状態を継続していくつもりなのか、日本人一人一人に問われているのだ。歴史の教訓に学ばねばならない。

1909年10月26日、ハルピン駅に降りた伊藤博文(左から2番目)。このあと安重根に射殺された江

73年1月23日、ベトナムを侵略し、敗北した米国は、パリでベトナム人民の代表と「ベトナム和平パリ協定」を結んだ。その第一章は、米国は、「独立・主権・統一・領土保全のベトナム人民の基本的民族権を尊重する」である。世界の良心が開いたベトナム法廷は、ベトナム人民の民族基本権を犯す犯罪がもっとも許されざる犯罪であると厳しく指摘し、米国を断罪したのだ。日本国憲法前文は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と宣言し全世界人民の平和的生存権を認めている。

 オバマ米大統領は、選挙中「米国の力は、武力ではなく、独立宣言などに示されている理念である」と述べた。その「米国独立宣言」は、長年踏みにじられてきたが、「譲り渡すことができない権利」として、「全ての人は、平等につくられ、生命・自由・幸福追求の権利がある」と述べている。朝鮮人民は、南北を統一させ、生命・自由・幸福追求の権利を享受し、平和に生きる権利を享受し、その素晴らしい知性と才能を人類史に全面的に開花させる不可侵の権利があるのだ。日本はそのことをはっきりと世界認識の基礎におかねばならない。

 先生は、前著の末尾に「自らの恥を赤裸々に告白されている」、先生は、その恨を超え、痛みを超えて、私に呼びかけてくださったのである!

 琴秉洞先生に感謝を込めて黙祷。(山本玉樹 北海道大学総合博物館資料研究員・北海道在日朝鮮人の人権を守る会)

●琴秉洞氏プロフィール

 朝・日近代史研究者、08年死去、「関東大震災と朝鮮人」共編(みすず書房)、「関東大震災朝鮮人虐殺関連官庁史料」編・解説(緑蔭書房)、「耳塚」(二月社)、「朝鮮人虐殺に関する知識人の反応」(全2巻・緑蔭書房)、「資料 雑誌にみる近代日本の朝鮮認識」(全5巻・緑蔭書房)、「日本の朝鮮侵略思想−人物に見る知朝人士」(朝鮮新報社)、「日本人の朝鮮観−その光と影」(明石書店)「朝鮮人の日本観−歴史認識の共有は可能か」(総和社)など著書多数。

[朝鮮新報 2010.1.25]