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大盛況!! アランサムセ「現代朝鮮演劇シリーズvol.1」 テンポよくパワフル「来てよかった」

等身大の朝鮮、笑いに包んで

熱演する金正浩さん(右から二番目、「バスケ選手」より)
若い二人の恋模様をおり込んだ舞台に、観客らは熱い視線を送った(「澄んだ水」より)

公害問題をテーマにした「澄んだ水」より

「熱き心に」の一場面

 自らの過去も省みず、延々と続くステレオタイプの朝鮮報道、とくに某新聞コラムの「北の人間は恋愛もしない」というような荒唐無稽な主張がまかり通る日本社会。こうしたデマゴギーが氾濫する風潮に風穴を開け、朝鮮の等身大の今を見せる演劇に話題が集まっている。

 昨年末上演された劇団アランサムセ2009年度公演「現代朝鮮演劇シリーズvol.1」(東京・新宿タイニイアリス、12月21日〜23日)。現代朝鮮のオリジナル戯曲に初挑戦した意欲作だ。在日問題をテーマに上演してきた同劇団にとっては、結成21年目の試みだった。

 同劇団を主宰する金正浩さんによれば、朝鮮のこの二、三十年の戯曲のテーマは、圧倒的に工場や企業所だという。このたび上演された3本「バスケ選手」(97年)、「熱き心に」(85年)、「澄んだ水」(06年)もやはり、舞台に登場するのは工場や企業所、地域社会だ。出演者たちが扮するのも、労働者や家内作業班の技師たちであったり、企業の支配人であったりする。舞台ではそんな市井の人々の日常が映し出され、笑いや怒りや喜びが切り取られていく。

 とりわけ、出色の出来だったのは、「川の汚染」といった公害問題をテーマに扱った「澄んだ水」。それこそ、いま、世界中で起きているタイムリーな問題を、笑いに包んで舞台に乗せた。

 もちろん喜劇仕立てではあるが、「川の汚染」というシリアスなテーマであるがゆえに、セリフは十分辛辣である。

 「汚水、どんな人間が川に汚水をそのまま…管理員くん、私はこの川を愛する釣り愛好家の名で正式に抗議する! 犯人を捕まえて法的制裁を加えるのだ!」

 「この問題を放置しておけば環境保護法に抵触して、私はもちろんのこと支配人も無事ではいられないものと…」

 「今の大同江は流れのない、いわば人口湖のようなものです。普通江のような支流から汚水が流れ込めば、その汚染を浄化することができません。大気汚染はまだ風によって解消することが可能ですが、川が汚染されれば都市の存亡を脅かします」

 舞台で飛びかうこれらの短いセリフを聞いただけで、朝鮮の人々の公害への厳しい認識と山河に寄せる深い愛情が伝わってくる。

 この日、唯一朝鮮語で上演された「熱き心に」では、若い役者たちがテンポのいい平壌語を操った。ここは東京のど真ん中だという記憶が一瞬飛びそうなほど耳に新鮮な感じがして、空気が和んだ。スピーディーな演出で、約20分ほどの舞台はアッという間に終わる。

 体制は異なっても、人が生きていくうえで欠かせないものは、美しい山河であり、そこで脈々と息づく豊かな人情であり、どんな権力の不正も許さぬ社会のありようであろう。そのことを無理なく教えてくれた秀逸な舞台であった。(朴日粉記者、写真は朝鮮大学校・全賢哲氏提供)

感想

 アランサムセの「現代朝鮮演劇シリーズvol.1」を観た観客の感想は次のとおり。

 ▼「よく観劇するが、アランサムセの作品は、とても心がこもっているように感じる。今回のように朝鮮らしい作品、日本人では絶対作れない作品をもっとみたい。『来てよかった』と思える、私にとって大切な劇団である。応援しているのでぜひ、これからもがんばってください。今回の舞台では自然を大切にする気持ちがあって、祖国への思いとつながる、忙しい、苦しいときほど文化・芸術・スポーツ、人との交流を大切にするという2つのメッセージが強く心に残った」(日本の女性)

 ▼「久しぶりに『朝鮮』に触れた気がした。短編というのも、内容がギュッと詰まっていてあきさせない。テンポもよく、小劇場ながら、感動は大である。李智美さんの声も歌もよく、別の歌を聴いてみたいと思った。また、舞ロードもすてきだった」(同胞女性)

 ▼「なかなか朝鮮の現代劇に触れる機会というのは得られないので、興味深く拝見した。芸術を通じて互いの理解が深まるのでは、という期待が感じられるよい体験であった」(日本の男性)

 ▼「とてもわかりやすい内容で楽しんで観た。どこの国で暮らしていても人間の感じることは同じなのだと思った。朝鮮の正確な情報は日本になかなか入ってこないが、これからはこのような素晴らしい演劇を通して知ることができたらよいと思う」(日本の女性)

 ▼「今年もパワフルな演技を楽しませていただいた。朝鮮演劇ということであったが、吉本新喜劇のような演出でおもしろかった。日本でも鑑賞できるなんてなかなかない機会だ。朝鮮語もわからないなりに楽しめた。

 率直にいうと、軍人精神が称揚されるところは心にひっかかるが、人間味あふれるストーリーだと感じた。環境をテーマにしているのもなるほどと思った」(日本の男性)

[朝鮮新報 2010.1.20]