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〈みんなの健康Q&A〉 躁うつ病(上)−病状

 近年、社会の仕組みは加速度的に複雑になり、それにともない心の病気にかかる人たちが、ここ数年爆発的に増えています(その証拠に、メンタルクリニックの数が、この10年で2倍に増えています)。

 その、心の病の筆頭に「うつ病」をあげることができます。よく「うつ病」は「心の風邪」と呼ばれますが、人は外からの刺激による身体の「風邪」だけではなく、内からの刺激によっても心は「風邪」をひいてしまうことがあるのです。

 心の病気は身体の病気とは異なり、時には、その人の「人間性」も否定されてしまうような、危うさもあります。「心の病」に対する正しい知識をもつことが、現代社会を生き抜く人たちには必要なのかもしれません。以前、この欄で「うつ病」を取り上げましたが、今回は「躁うつ病」を説明しようと思います。

 今では、日常の会話の中でも「躁うつ」という言葉が浸透してきていますが、専門用語では、「双極性感情障害」という名前になります(混乱を避けるため、今回は「躁うつ病」という言葉で統一して説明します)。うつ病の時期だけに起こる病気、すなわち「うつ病」は、男性で10人に1人、女性で5人に1人ぐらいが、一生のうちに一度は経験する、非常によく起こる病気です。ところが、 うつ病のように見えて、実は「躁うつ病」であるケースも意外と少なくありません。

 かつては、100人に1人ぐらいは、一生のうちに一度は「躁うつ病」になると言われていましたが、最近では、100人に2〜4人位だとも言われています。また、「うつ病」と違い、「躁うつ病」のなりやすさに女性と男性の差はほとんどありません。

 「躁うつ病」には、特徴的な「うつ病相」と「躁病相」があり、正常な状態をはさんで交互に繰り返されるのが一般です。「うつ病相」は皆さんご存知のように「気分が落ち込み、何事に対しても意欲が起こらなくなる状態」が続く期間のことです。一方、「躁病相」とは、気分が高揚し、自信に満ちて、行動が活発化する状態が続く状態を指します。軽躁状態を上手に利用して、気分の波に乗りながら、社会生活や芸術活動にエネルギーを注ぎ込み、職業生活のパフォーマンスや対人コミュニケーションへの活力を高めている人がいる一方で、「抑うつ感と高揚感の不快な波」にうまく対応できず、社会参加に支障をきたしている人もいるのです。

 「躁うつ病」では、これらの2つの病相が「交互に現れる」のが一般的ですが、単独にどちらか一方だけが現れるものを「単極型うつ病」あるいは「単極型躁病」といいます。しかし、躁状態だけが単独で現れる「単極型躁病」は実際には極稀で、最初に「躁病相」の症状が現れたとしても、その後にうつ状態が現れたら、結局「双極型躁うつ病」だった、ということになるのです。「躁うつ病」は、もう少し細かく分けられています。躁状態をともなう「T型タイプ」と、躁状態までにはならない軽躁状態(躁状態の軽いものと考えて下さい)をともなう「U型タイプ」に分けられます。「躁うつ病」と言えば、おそらく皆さんがイメージされるのは「T型タイプ」でしょう。このT型のタイプは、気分の浮き沈みが激しく、症状は周囲から見ても明らかです。

 私たちは、誰でも気分のいい日や悪い日があります。何か良いことがあると、ついウキウキして、おしゃべりになったり、逆に悲しいことがあると元気がなくなって、無口になったりします。「躁うつ病」の人が一旦躁状態になると、とにかく気分が高ぶり、行動も大胆になり、機嫌よく誰かれとなく話しかけて回ったりします。「夜眠らないでも平気、自分は誰よりも優れていて、偉い」などと感じていますから、たとえ深夜や早朝でも相手の都合を考えず、電話をかけたりします。自分にとって良いアイデアがどんどん浮かんできて、いつもより活動的になるので、次第に行動が広がり、「すばらしいアイデアが浮かんだ、発明をした、新しい会社を作る」と、一見調子が良いようにも見えますが、どんどん話が誇大化していきます。おしゃべりになり、軽率になり、 しかも自制心を失っているので、思いついたことを実際に行動に移してしまい、その結果、多額の借金を抱えたり、人間関係を壊したり、信用を失ったり、場合によっては社会的地位を失ってしまうことも珍しくはありません。

 一方、うつ状態では、一日中、気分が憂うつで、いつも見ていたテレビや新聞にも興味がもてず、何をしても楽しめません。何も食べる気にならず、体重が減ってしまったりします。夜はなかなか寝つけなくなり、深夜〜早朝に目が覚めてしまい、過去のことをくよくよ悔やんだり、自分を責めたりすることばかり考えてしまいます。自分の考えがまとまらず、 集中力や決断力がなくなり、ひどく疲れ易く、仕事をしようとしてもできません。何事にも億劫になり、行動に移すことができなくなります。ひどくなると、じっとしていることすらできず、 立ったり座ったりと落ち着かなくなる場合もあります。まれではありますが、躁状態でもうつ状態でも、妄想(現実ではありえないことを信じてしまう)や幻聴(実際には存在しない声・音が聴こえる)が認められる場合もあります。

 躁状態では、「誇大妄想」 (例 「自分には特別な能力がある」)、うつ状態では「貧困妄想」 (例 実際はしていないのに「破産した」)、「心気妄想」 (例 実際はなっていないのに「不治の病にかかった」)、「罪業妄想」 (例 実際はしていないのに「大変な罪を犯してしまった」)などの症状が特徴的です。しかし、最近では重度なT型よりも、気分の浮き沈みの軽度なU型の方が潜在数は多いので、より身近な問題と考えられています。「双極性U型」というのは、「躁」と「うつ」がハッキリと現れる通常の「躁うつ病」(双極性T型)とは異なり、「軽い躁」と通常の「うつ」が現れるタイプを言います。この「軽い躁状態」は軽いため、本人は調子が良いぐらいの認識しかなく、家族や友人などの周囲の人も気づくことは少なく、日常生活に支障を来すことはほとんどありません。しかし、もともと患者本人にとっては躁状態で「自分自身が困る」と言う自覚が乏しく、「病気」としての認識が乏しい場合がほとんどで、むしろ周囲の人間に影響することが多いようです。ですから、当人は躁状態の後の「うつ状態」の際にメンタルクリニック等の医療機関を受診するのですが、診察室では「うつ」の苦しさしか訴えません。そのため、精神科医でも診断・発見が難しく、多くの場合が「うつ病」と診断されて治療されているようです。次回は「双極性U型」の続きと、その対処法などについて説明します。(駒沢メンタルクリニック 李一奉院長、東京都世田谷区駒沢2−6−16、TEL 03・3414・8198、http://komazawa246.com/)

[朝鮮新報 2010.1.6]