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検証 機先制した朝鮮の平和外交

哨戒艦事件 「軍事的対立」から「対話による解決」へ

 南の哨戒艦「天安」号沈没(3月26日)をめぐる外交で、朝鮮は機先を制し情勢を転換させた。朝鮮半島の軍事的緊張が高まる中、一つの「事件」によって戦争が誘発されることのない「恒久的な平和体制の構築」が緊急の課題として浮上した。米国と南朝鮮は、「合同軍事演習」や「追加金融制裁」の実施など依然として強硬姿勢を示しているが、「北を非難すべき」という主張を退けた国連安全保障理事会議長声明が採択(7月9日)された時点で、米・南の軌道修正は不可避になったというのが大方の見方だ。「天安」号事件をきっかけに朝鮮が展開した「平和外交」をふりかえる。

「検閲団派遣」で「先手必勝」

国連安保理は「対話による問題解決」を「奨励」する議長声明を発表した(ニューヨークで記者会見する朝鮮の国連代表(右) [写真=聯合ニュース]

 「われわれの外交的勝利である」

 議長声明の発表直後、朝鮮の国連代表が会見で語った言葉は、今後の情勢発展の方向性を示すものだ。哨戒艦沈没とは何の関係もないという朝鮮の立場に「留意」した議長声明は、「直接対話と交渉を再開」して朝鮮半島の懸案問題を「平和的に解決」することを「奨励」している。

 議長声明が発表された直後、朝鮮は「平等な6者会談を通じて平和協定の締結と非核化を実現するために努力する」(外務省スポークスマン)と言明した。外交的見地からすれば、「哨戒艦攻撃」の濡れ衣を着せられた国が逆転劇を起こしたといえる。朝鮮は、大国の利害が複雑に絡む多国間会談の発題者としてのポジションを確保し、今後予想される対話局面で先に主導権を握ることになった。

 「北による魚雷攻撃」によって哨戒艦が沈没したという民軍合同調査団の「調査結果」がソウルで発表(5月20日)されたまさにその時、平壌は事件の真相究明のために国防委員会の検閲団を現地に派遣すると宣言した。事態の推移を見守るのではなく、無実の罪を告発する「被害当事者」としての立場を確保する先手必勝の戦術を取ったのだ。国際社会は朝鮮側の主張にも当然、耳を傾けなければならなくなった。

 「調査結果」が発表された時点で、真相究明に焦点を合わせた対応策が迅速に取られたという事実は、朝鮮が大局的な視点から今回の事件を判断し「『天安』以後」の状況までも考慮していたことを示している。

「戦争覚悟」で敵対国の挑発防ぐ

朝鮮は「全面戦争も辞さない」強硬姿勢を示すことで、敵対国の無謀な軍事行動を未然に防いだ(6月25日、平壌で行われた反米集会 [朝鮮中央通信=朝鮮通信]

 世界的な冷戦構図が崩壊した後、朝鮮は先軍路線によって国の安全保障を担保し、米国の軍事的脅威に対抗して核抑止力を保有するに至った。朝鮮の核保有によって東北アジアの政治力学にも変化が生じた。

 朝鮮は核問題をめぐり攻防戦を続けてきた朝米関係の全過程を総括し、今年1月、平和協定を締結するための会談を開催することを関係国に提案した。60年前、朝鮮半島で戦争が勃発して以来の交戦状態に終止符を打つ交渉が準備されつつあった。3月に哨戒艦が沈没する直前まで、朝鮮と米国は中国の「3段階提案」に沿って6者会談を再開させるプロセスを踏んでいた。

 朝鮮の観点から見れば、「天安」号事件は大勢の流れに反した突発的な事態だったといえる。

 現在、東北アジアの国際関係は朝鮮半島の平和保障システム樹立と連動して大きな転換期を迎えようとしている。さる5月、金正日総書記の中国訪問が世界の注目を集めた。新時代の友好協力関係を内外にアピールした北京での朝中首脳会談は、「山と河が連なる隣邦」が今後の国際秩序再編を念頭に共同歩調を取った動きだ。

 今回、朝鮮は国際政治の新たな主流派として外交戦術を駆使し、果敢に行動した。艦船沈没を口実にした「報復」と「制裁」に対しては「即時、全面戦争を含む強硬措置で応じる」(国防委員会スポークスマン声明)との立場を表明することで敵対国の無謀な軍事的挑発を未然に防いだ。

 結果的に哨戒艦沈没の衝撃が引き起こした危機をこれ以上拡大してはならないという国際社会のコンセンサスが形成された。「天安」号事件に関する国連安保理議長声明は、朝鮮半島問題の利害関係国が緊張激化を求めるのではなく平和的対話の軌道に戻ることを「奨励」したのである。

米国、「戦略的忍耐」の限界点

 現在、オバマ政権は「戦略的忍耐(strategic- patience)」の方針を打ち出し、朝鮮との対話を回避している。11月の中間選挙を控え「弱腰」との批判を受けかねない対朝鮮外交を先送りしたい政権にとって、「忍耐」は非常に使い勝手の良い便利な言葉だ。

 しかし国連安保理議長声明は、米国の遅延戦術を否定している。声明の核心部分は「忍耐」ではなく「対話と交渉を通じた問題解決」だ。

 米国は哨戒艦の沈没原因に関する南朝鮮の「調査結果」を支持したが、安保理常任理事国であり、6者会談を構成する中国、ロシアは独自の行動を取った。流動化する東北アジアの国際関係が「天安」外交を通じて表面化したと見ることができる。

 朝鮮の核保有に象徴されるように、この数年間で東北アジアにおける国際政治のパワーバランスは変化した。米国の影響力は弱まり、相対的に他の大国の地位が向上した。

 オバマ政権は哨戒艦沈没事件を米国が失った地位を取り戻すためのチャンスと捉えた。この間、普天間問題の「妥結」や南朝鮮への戦時作戦統制権の移管延期などの動きがあった。日本、南朝鮮との「軍事同盟」を強化し、冷戦時代の対決構図を再現することで、東北アジアにおける米国の軍事的プレゼンスと影響力を誇示しようとしたのだ。

 結果的に米国の「冷戦回帰」は国際社会の呼応を得られなかった。国連安保理で議長声明が発表された後も、オバマ政権は朝鮮に対する制裁と軍事的圧迫を強めるとしているが、国連外交における敗北は、米国の思惑を超える東北アジアの新たな政治力学を如実に示すものだ。

 「戦略的忍耐」も限界に達しつつある。オバマ政権が、他の大国が利害関係を認めている朝鮮半島で戦争の危機を煽り続けることは事実上、不可能だ。米国の挑発行為に対して朝鮮側は「対話にも戦争にも準備ができている」(外務省スポークスマン)としている。もしも再び突発的事態が発生した場合、国際世論の非難は国連の対話勧告を無視した米国側に向けられる公算が高い。

政策の照準は「2012年」

 国連安保理議長声明が発表された数日後、ベトナムでASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会議が開催された。6者会談参加国の外相が全員参加した会議で、米国と南朝鮮はまたしても「天安」号事件を持ち出し朝鮮を非難する世論形成を画策したが、会議では国連安保理議長声明を支持する文書が採択された。

 アジアのほとんどの国々は、朝鮮半島で対立が激化し、緊張が高まることを望んでいない。ARF閣僚会議に参加した朝鮮の朴宜春外相も「世界の中の朝鮮」「アジアの平和」をアピールする演説を行っている。朴外相は、2012年に「強盛大国の大門を開く」という国家の戦略構想と経済分野における成果を紹介した。そして国際投資の拡大や対外経済協力の活性化などを目指す朝鮮にとって、「今こそ安定した情勢が必要な時」だと強調した。

 朝鮮は「天安」号事件を口実にした敵対行為に「核抑止力の強化」で対抗するとしているが、敵対国に向けられたこのような「超強硬発言」はあくまでも作用・反作用の法則が働いた結果だ。国際会議に参加する政府高官や外交関係者は、むしろ機会あるごとに「自主・平和の理念に基づく朝鮮の国家戦略」について公言している。

 米国はこれまでも各国の対朝鮮投資を妨害してきた。オバマ政権は「天安」号事件を理由に朝鮮に対して「追加金融制裁」を加えるとしている。朝鮮半島の周辺で行う合同軍事演習も経済復興の必要条件である地域の平和的な環境を破壊する行為だ。

 「ポスト『天安』」の道標として朝鮮が示す「平和志向」は周辺国の賛同を受けている。6者会談再開の「3段階提案」を示した中国は米国、南朝鮮の合同軍事演習に断固反対した。朝鮮を狙った軍事挑発は、中国に対する軍事的な圧力の性格も帯びている。経済協力の活性化など伝統的な友好関係をさらに発展させることを首脳レベルで確認した朝中両国は、地域の安定を脅かす「冷戦型対決構図の復活」を阻止することでも、利害が一致している。

「転禍為福」、大胆な外交スタイル

 「転禍為福」−「天安」号事件への朝鮮の対応は「禍転じて福となす」ということわざを実践するものだ。敵対国の挑発を逆手に取り、新たな情勢発展の局面を開いた。

 朝鮮の大胆な外交スタイルは、国家の最大利益を追求する長期的な展望計画とその目標実現に対するリーダーの確固たる意志に裏打ちされたものだ。冷戦後、幾多の試練を経験した朝鮮は、金日成主席の念願であった「強盛大国の建設」を国家の戦略的路線として設定した。そのための条件と環境を整備するためにまい進し、「2012年」という期限を宣言するに至った。朝鮮は一つの目標に向かって一貫した政策を進めてきた国であるからこそ、「天安」号事件のような突発的な事態が起きても、国際政治の大きな流れの中で判断し、局面を転換させる外交的アプローチに国の力量を集中させることができる。

 米国と対峙する朝鮮の先軍路線は核抑止力を保有するに至ったが、本来の目標は朴外相の発言にもあるように「平和の実現」「強盛大国建設の環境づくり」にある。角度を変えて見れば、「朝鮮の強盛大国建設は米国の侵略戦争策動に最終的に勝利するための最後の決戦」(労働新聞論説)なのだ。

 それが現実となる局面が開かれようとしている。国連安保理議長声明発表後、朝鮮が「平和協定の締結と非核化実現」のための「平等な6者会談」を率先して提起したのは単なる思いつきではないだろう。

 朝米間の交戦関係に終止符が打たれれば、北南関係にも影響が及ぶ。議長声明発表直後、ジュネーブで開かれた世界国会議長会議での発言が注目される。「今日、朝鮮半島で平和と安全を保障する決定的な担保は北南共同宣言の尊重を最優先し、宣言を完全に履行することにある」(崔泰福・最高人民会議議長)−すでに北南関係改善に関する言及も始まっている。

 米国と南朝鮮の戦争策動によって緊張が高まっているが、朝鮮は現在の状況とは異なる「2012年の情勢」を展望している。朝鮮半島の安保環境と地域の国際秩序を大きく変える「転禍為福」の外交術は、まだ終わっていない。

[朝鮮新報 2010.8.4]