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〈検証 日本メディアの「北朝鮮」報道 下〉 国際比較でわかる非正常化

〜テレビによる09年「ミサイル」発射報道再考〜

 今回は、国際比較によって日本のテレビによる「北朝鮮」報道の特徴を浮き彫りにしてみたい。比較の対象として、国際報道に定評のあるイギリスの「BBC(イギリス放送協会) World News」を選んだ。もちろん、24時間オンエアの国際報道番組である「BBC World News」と日本の地上波報道番組を単純比較することはできないが、少なくとも比較によって以下のことは明確に説明できた。

英BCCは「ロケット」に統一

 第一に、09年4月5日に朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)が打ち上げた「光明星2号」の呼称について、日本のテレビ番組は「ミサイル」「飛翔体」などを多用した一方、BBCでは呼称を「ロケット(rocket)」に統一していたことが挙げられる。「ミサイル(missile)」を使う場合には、98年の「テポドン」も含めて「ミサイル発射実験(missile test)」としていた。あくまで「実験」であるという意味である。加えて、「ミサイル発射実験」という言葉を使うときは、発言者(情報源)が明示されていた。BBCは、朝鮮の行為についてなるべく正確・客観的に表現しようと努めており、日米韓の主張を伝えるなかでもこの姿勢は一貫していた。

 また、「光明星2号」について、BBCは検証過程での明言は避け、見做し報道・決めつけ報道をしなかった。一方、日本のテレビ報道は、キャスターやナレーションなどの発話で「ミサイル」という言葉を直接使わない場合でも、視聴者は「発射=ミサイル発射」と容易に受け取ってしまう仕組みになっていた。発話で「北朝鮮の発射」などと乱発しつつ、スタジオ背景や字幕で「ミサイル」という語句を映すことで発話を補い、自衛隊のPAC3(パトリオットミサイル)配備の映像を中継したからである。

 また、日本のテレビ報道が「ミサイル発射実験」ではなく単に「ミサイル」を使用したこと自体が、わい曲であるばかりか、朝鮮の行為が戦闘行為の始まりであるかのような印象を与えるものであった。このような、「言外の意味」を含ませた報道は、意図的であるかどうかにかかわらず視聴者を一定の方向に誘導するものだったと指摘できる。

 ちなみに、韓国ではKBS(韓国放送公社)はもちろん「ロケット」と言い、最も対北姿勢が厳しい論調で有名な朝鮮日報でさえ、社説などで「ロケット」を用いて「ミサイル」という言葉はきわめて限定的に使用していた。

 第二に、BBCの報道では「何が起こった」「誰がどう発言した」などの事実報道と、専門家による解説部分とが明確に分けられていた。つまり、「出来事・行為を伝える報道」(ストレート・ニュース)と専門家による「背景解説」に徹していたと言える。キャスターが政治家や専門家の説明を要約して発言することがなかった。しかし、日本のテレビ報道は、キャスターとナレーションが、独自の見解をまるで事実のように報道していた。問題に対して多角的な視点を視聴者に提供するどころか視聴者の理解を誤導する可能性が高かったと指摘できる。

「朝鮮悪玉論の枠内での報道

 第三に、日本のテレビ報道は、「光明星2号」とは直接関係のない98年の「テポドン」打ち上げ映像や軍事演習の映像を反復使用したのに対して、BBCは過去の映像の使用に関しては非常に限定的・抑制的であった。BBCの姿勢は、正確な報道に徹する当たり前の態度であるといえるが、日本メディアはこのような基本ルールを端から無視していた。

 一連の分析からわかったことは、日本のテレビ報道は、一貫して朝鮮悪玉論という枠内にあり、このフレーム内でのみ報道を自由に″sっていたことであった。言うまでもなく「ジャーナリズムの原則」はほとんど守られていなかった。今回検証した09年4月の報道において、メディアの視点は朝鮮の「行為」にのみ集中しており、そこには日朝関係の歴史的な経緯や、朝鮮の宇宙開発に関する議論が欠如していた。自衛隊の迎撃配備や日本政府による経済制裁強化などが本当に問題の解決になるのかという批判的な視点もなきに等しかった。日本については、「悪い朝鮮に断固として対応する強い日本政府」と「怖い」「不安」「振り回される」などと説明された地方自治体職員や一般市民という二通りに描かれ、「国際社会の声に耳を傾けずにミサイル#ュ射を強行した朝鮮」と、その対応に追われる「被害者としての日本人」というフレームに終始していた。そして、国際比較でわかったように、日本のテレビによる「北朝鮮」報道は、ジャーナリズムとして守るべき一線を大幅に越えていた。

 日本メディアの醜悪な部分が「北朝鮮」報道には集約されている。いかに非正常な「北朝鮮」報道を行っているかを自覚すべきだ。「北朝鮮」報道をメディア自身が検証し改善していくことが、ジャーナリズム再生のために今求められている急務の課題だと思う。(森類臣・同志社大学嘱託講師)

[朝鮮新報 2010.7.28]