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〈検証 日本メディアの「北朝鮮」報道 中〉 視聴者誘導とバランス欠く視点

〜テレビによる09年「ミサイル」発射報道再考〜

キャスターの安易な発言

 日本メディアの「北朝鮮」報道を語るうえで言及しなければならないのが、コメンテーターとキャスターの存在であろう。とくに、テレビの報道番組では、背景説明や事実関係が示す意味を解説するゲスト(有識者)とは別に、必ずしも専門家でない番組独自のコメンテーターを多用する傾向がある。また、メイン・キャスターによる論評も、ストレート・ニュースと明確に区分されないままなされることが多い。事実なのか独自の意見表明なのかが、よほど注意深く聞いていないとわからないのだ。これが視聴者に誤解・混乱を引き起こす原因を作っている。

 テレビによる09年4月のミサイル&道においては、コメンテーターは専門家(大学教授など)と軍事専門家として扱われた自衛隊出身者、報道機関所属の専門記者、番組にレギュラー出演している評論家であった。たとえば、朝鮮半島情勢の専門家として、伊豆見元教授(静岡県立大)、平岩俊司教授(関西学院大、当時は静岡県立大)が登場した。軍事専門家としては、武貞秀士氏(防衛研究所)、金田秀昭氏(岡崎研究所、海上自衛隊元海将)などがひんぱんに出演した。ロケットの原理、技術的な側面については的川泰宣教授(宇宙航空研究開発機構)、チャールズ・ビック氏(米国・軍事研究機関「グローバル・セキュリティー」)などである。

 コメンテーターおよびキャスターの発言のタイミングとその内容を時系列で追うと、キャスターによるコメントが、安易な意見集約を誘導するものとして機能していることがわかった。とりわけ、専門家から解説がなされた後に、それまでの文脈を踏まえず発せられるキャスターの短いコメントは、テレビの一過性という特徴と相まって、強いメッセージとして視聴者の中に蓄積されていくのではないかと危惧される。同じことが、「ナレーションによる状況説明」にも当てはまる。単純ではない問題を簡略に説明してしまうことで、ニュースの安易な解釈を視聴者に提供してしまうのだ。

 例として、90年4月6日NHK「News watch 9」を挙げよう。朝鮮が5日に「光明星2号」を打ち上げたことについて、番組は専門家のインタビューを放送した。日置幸介教授(北海道大理学部)は「日本がロケットを打ち上げた時も同じような現象が現れますので、まあ、H2(ロケット)Aとかと、比較的似たような軌跡を描いていますんで、結構、ちゃんと飛んでるなあという気がしますね」とコメントし、続いて香田洋二氏(元自衛艦隊司令官)は「これだけ事前に衛星と公表をした中で、あえて、それを破るような行為をするということは考えにくい。私は、これは、そもそも衛星をねらったものだ、というふうに考えております」とコメントした。この後、米朝両国の国旗の映像を背景に「成功か失敗かの判断を別にすれば、北朝鮮もアメリカも、今回の発射は、弾道ミサイルそのものの実験ではなく、人工衛星の打ち上げだったという点では、一致しているように見えます」とナレーションが入った。しかし、田口五朗キャスター(当時)は「日本は、アメリカなどと連携して、慎重な構えを続ける中国やロシアとの一致点を見出すことを目指すべきだと思います。そして、ミサイルだけでなくて、核や拉致という、北朝鮮をめぐる懸案の解決を目指す道筋を、なんとか付けてもらいたいものです」と締めくくった。いったん、「光明星2号」は人工衛星だと結論づけたにもかかわらず、最後に田口キャスターが文脈を無視して「ミサイル」と断定し、国際的な連携によって核や拉致の包括的解決を朝鮮に迫るように独自の見解を示したのである。この時、田口キャスターの口から「これは私の見解ですが…」などという言葉はなかった。

米国への一方的偏り

 ミサイル&道において言及された各国(日本以外)の主張や対応について、報道量があまりにも偏っていたのも問題である。分析では、09年4月3〜6日の分析対象期間中、米国が41%、韓国と中国が23%である一方、主要アクターである朝鮮についてはわずか4%であった。米国への一方的な偏りがわかった。 朝鮮については、主に朝鮮中央テレビの「人工衛星打ち上げ成功」の映像を限定的に使用しただけだった。発射物の分析などの重要点についても、朝鮮中央テレビの短い引用を除くと、朝鮮が情報源となるものは見当たらなかった。朝鮮発信情報の欠如については、そもそも日朝の国交がない状況で情報が入手しにくい点などいくつかの理由が挙げられるだろう。しかし、そのことを既定路線としてしまい、「情報入手が十分になされていません」などという断りすら行われないというのは、視聴者に誤ったイメージを伝える結果になろう。(森類臣・同志社大学嘱託講師)

[朝鮮新報 2010.7.26]