延坪島事件 「北の挑発」論が隠蔽する真相 |
米国の責任、浮き彫りに 朝鮮西海で生じた北南の砲撃戦は57年間続く停戦体制の不安定性を表面化させた。延坪島が停戦協定に反する武装地帯、北南対決の場と化した責任は米国側にある。朝鮮側から見れば、自国の領海の内側に深く入った位置にある延坪島は南側の対北軍事挑発の最前線だ。米国が一方的に設定した「北方限界線」(NLL)によって、西海は北南衝突の危険が常にある紛争水域となってきた。今回、停戦協定当事国である米国は「護国」軍事演習(※1)の最中に、自らの軍事的統制下にある地域で、南朝鮮軍が北側領海に対する砲撃を計画、実行することを阻止しなかった。朝鮮側が停戦協定違反だと判断するに違いない軍事行動を黙認したのである。
南の戦争行為
1950年に勃発した朝鮮戦争は終わっていない。53年7月27日の停戦協定により一時中断されているに過ぎない。 「民間人地区に対する砲撃」をことさら強調し、延坪島事件を「北の挑発」と断定するのは、事件の真相と問題の本質を覆い隠す世論操作だ。朝鮮戦争の推移に関する厳然たる歴史的事実と現在の厳しい軍事的対立への視点が欠けている。 朝鮮、中国と「国連軍」の旗を掲げた米国との間で停戦協定が締結された直後から、米国による停戦協定破壊行為は繰り返されてきた。双方が敵対行為を中止し、域外からの軍事人員と各種武装装備の搬入、増強を禁ずるとした停戦協定12、13項の要求も、米国は無視し続けた。「防衛」ではなく「北侵」を想定した米国・南朝鮮合同軍事演習が継続的に実施されてきた。 今回、朝鮮が砲撃を断行したのは、自国の領海への砲撃計画を中止するように北側が行った警告を南側が無視したことに起因する(※2)。 停戦協定に違反した自らの軍事行動については口をつぐみながら、朝鮮側の対応措置に「挑発」のレッテルを貼るのは、米国が世論を誘導するために使う常とう手法だ。米国は今回も停戦協定違反者である南側を庇護している。 朝鮮半島で交戦状態が続く中、極度の緊張状態にある西海の北側領海に砲撃を加えれば、それは事実上の戦争行為だ。一方が停戦協定を勝手に破棄すれば、他の一方もそれに拘束されることはなくなる。今回、朝鮮は原則的に対応した。
北の平和提案 「北による挑発」が強調されることで隠ぺいされているもう一つの事実がある。朝鮮は、偶発的な衝突が戦争再燃につながりかねない不安定な停戦体制を、確固たる平和保障体制に転換させることを一貫して主張してきた。これを拒否し、軍事的な対決構図の維持に固執してきたのは米国だ。 今年だけを振り返っても、両国の相反する行動が際立っていた。朝鮮戦争勃発60年に際し、朝鮮は平和協定締結のための会談を停戦協定当事国に正式に提案したが、米国は受け入れなかった。オバマ政権は「戦略的忍耐」という名目で、対話ではなく朝鮮半島で緊張を高める道を選択した。 今年7月、南朝鮮の哨戒艦沈没事件に関する国連安保理議長声明が発表された。懸案問題を対話を通じて、平和的に解決することを望む国際社会の意思を反映した声明に沿って、朝鮮と中国は真摯な対話外交の再開を目指した。しかし米国と南朝鮮は東海と西海で合同軍事演習を強行することで対決姿勢を固持した。 当時、朝鮮は米国と南朝鮮の軍事的な挑発に、「われわれの強力な核抑止力で堂々と対処する」(7月24日、国防委員会スポークスマン声明)と原則的立場を示す一方で、局面転換のための努力を続けた。9月以降は、離散家族の再会事業など人道問題で南との対話チャンネルを開き、全般的な関係改善の糸口を模索していた。 南側は、北側の和解提案に応えず、米軍との合同演習中に情勢を戦争の瀬戸際に追いやる無謀な軍事行動を取った。そして米国は、延坪島で砲撃戦が起きると、停戦協定当事国として拡大防止の責任を果たすどころか、西海に原子力空母を展開し、南朝鮮と大規模軍事演習を実施すると発表した。 「臨海点超えた」 米国が南朝鮮と行う軍事演習は、交戦相手国に対する露骨な敵対行為であり、重大な停戦協定違反だ。 2007年の北南首脳合意(10.4宣言)には、紛争の海である西海を平和の海にするための構想が示されている。合意に従い、北の人民武力部長と南の国防部長官が平壌で会談し、海上の軍事境界線問題を討議したこともある。李明博政権がすでにある首脳合意を尊重し、その履行のために少しでも努力していれば、今回のような事態は起きなかっただろう。 朝鮮は、相手の挑発に対しては断固たる対抗措置を取るとしているが、危機の拡大を望んではいない。適切な平和保障対策が早急に講じられるべきだ。とりわけ米国はその責任から逃れることはできない。南朝鮮軍の戦時作戦権を握っているのは「連合司令部」、実質的には米軍だ。朝米交戦関係に終止符を打たない限り、朝鮮半島の軍事的対決の構図は解消されない。 緊張が臨界点に達し、朝鮮人民軍の砲門が開かれた状況で、米国が相手の自制力を前提に挑発行為を繰り返せば、破局的な事態を招きかねない。 オバマ政権の「戦略的忍耐」が失策であったことは、誰の目にも明らかになった。今回の事件が朝米関係の重大な局面転換のきっかけにならないとも限らない。朝鮮はすでに平和協定締結を提案しており、中国と米国との間で新たな議論が始まる可能性もある。米、南朝鮮が西海で軍事演習を強行した日に、中国が6者会談の首席代表による緊急協議を呼びかけたのも注目される動きだ。(金志永) ■ ※1「護国」の概要 11月22日に始まった米国と南朝鮮の連合北侵軍事演習。30日までの期間に、沖縄駐屯米海兵上陸機動部隊を含め7万余人の兵力と500余機の戦闘機、50余隻の艦船を参加させると発表していた。 ※2 警告無視して砲撃 北側は、南朝鮮軍が「護国」演習期間に延坪島で実弾砲射撃を計画したことと関し、北側領海に一発の砲弾でも落ちた場合には直ちに対応打撃を加えると何度も警告した。事件当日の23日午前8時、北南軍事会談北側団長は、南側団長に延坪島一帯での砲撃計画を中止するようあらためて求める電話通知文を送った。にもかかわらず、南朝鮮軍は13時頃から北側領海に数十発の砲撃を加えた。 [朝鮮新報 2010.12.1] |