〈教室で〉 福岡初級幼稚班 主任 梁静美先生 |
リトミックで創造力を 福岡市東区和白の丘陵地に位置する福岡朝鮮初級学校は、日本各地にあるウリハッキョのなかでも、もっとも美しい自然の景勝に恵まれた学校の一つであろう。玄界灘と博多湾という2つの海に囲まれ、和白干潟には今年も越冬のため朝鮮半島からたくさんのクロツラヘラサギが飛来してきた。
「いいとこみせなきゃ」
晩秋の小春日和の園庭では、赤い柿の実がたわわに実っている。こんな夢のような美しい景色のなかで、幼稚班の園児たち12人と鬼ごっこ遊びをするのは梁静美先生(42)である。鬼から逃げようと全力疾走する子どもたち。歓声が秋空に吸い込まれていく。それが一段落すると次の遊びへ。20メートルはあろうかと思われるターザンロープに乗ろうと、子どもたちが次から次へと先生の腕に。そこにいるだけで幸せな気分に浸れる。 「さあ、みんな、次は保育室に移動よ」。先生のウリマルの指示に、子どもたちがテキパキと反応する。今年入った3歳児たちもすべて先生の言葉を理解している。子どもの偉大な能力をあらためて実感させられた瞬間だ。 記者が訪ねた日は、公開保育の日で、園児のオモニやハルモニたちの姿もチラホラ。 子どもたちの表情に誇らしさや緊張感も。幼いながらも「いいところをみせなきゃ」という胸の高鳴りが垣間見えた。 先生のピアノの演奏に合わせて、子どもたちが歌い、踊り、リズミカルに躍動する。お芋堀りの歌やケーキ作りの歌…。まるで、映画「サウンド・オブ・ミュージック」のマリア先生のような先生の歌声と子どもたちのハーモニーが保育室に響く。軽快で柔らかな朝鮮の童謡がおよそ10曲。この日、公開保育のためオモニとハルモニに連れられてきていた園児の金愛那ちゃん(4)の妹、瑞希ちゃん(1)もいつの間にか、手拍子と踊りの身振りを覚えて園児たちの輪に溶け込んでいる。 たとえば、この日初めて披露されたという「ケーキ作りの歌」では、先生が卵を頭で割るのを、「コッツンパ」と教え、卵と小麦粉を「シャカシャカ」回して、「ピビゴ」(混ぜて)と歌う。何回も繰り返すうちに歌と踊りを覚え、ケーキが完成していく。ウリマルを自然に身体で覚えながら、ケーキの作り方も学べるという一石二鳥。 先生はリトミックは、「リズムや音に対して子どもが身体的に反応していく。集中力や自発性、表現性などを培い、技術、技巧によらない創造的な人間教育を目指すうえでとても効果的だ」と指摘する。その説明の通り、目の前では子どもたちが、それぞれの感性とセンスに合わせて、音楽を身体いっぱいに表現している。 愛那ちゃんのハルモニ、山下春代さん(58)が孫たちの様子を見ながら、うれしそうに語る。「この学校は夫と息子が通った学校。そして今、孫が通園している。孫が通うようになって、朝鮮語や朝鮮の歌を習って、『ハルモニに教えてあげる』と言ってくれるので、今ではノートに書いて、言葉を覚えるようになった。本当に孫のおかげで色々なことを知り、友だちの輪も広がった。私は鹿児島の出身だが、今では夫の同窓会にも一緒に出るようになって、この学校が私にとっても母校になった」と破顔一笑した。 独学で保育士資格 梁静美先生はもともとは、初級部の音楽教員だった。93年に結婚して幼稚班の教員に転身。「最初の頃は、子どもが怪我したらどうしようかとハラハラして…」。幼児教育を任されたが、経験のなさからくる不安、保護者とのコミュニケーション不足もあって試練が続いた。「でも、学校の同僚や保護者たちはじめ周りの人々に助けられた。未熟な私を長い目で見てくれ、温かく見守ってくれた」と感謝の言葉を口にする。 やがて、双子の女児に恵まれた。共働きを体験して、教育者として理屈ではない、親の気持ちも汲み取れるようになった。 「在日朝鮮人として生きていくうえで、子どもたちにはたくましい力と勇気が必要になる。母国語はもちろん、あいさつや民族の習慣など民族性を自然に身につけられるように幼児教育をしっかりとしなければ」 学生時代はそんなに勉強好きではなかったというが、独学に励み、4年間の猛勉強の末、保育士の国家資格を取得。さらに、いまはリトミック指導資格にも挑戦中である。すでにリトミックで活用できる歌は100曲以上は弾きこなせるが、先生の向学心は果てしない。「一生学んでいきたいと思う。学んで研さんを積みながら、それをウリハッキョに恩返ししていきたい」ときっぱり語った。(朴日粉) [朝鮮新報 2010.12.3] |