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「高校無償化」 民族教育の自主性尊重を、佐野通夫教授に聞く

 朝鮮学校への「高校無償化」適用を先送りしている文部科学省は5日、「高等学校の課程に類する課程」を置く外国人学校の指定に関する基準や手続きなどを制度的、客観的に定めた規程を発表した。10校すべての朝鮮高級学校が基準を満たすことは明らかだ。一方、高木義明文科相は「教科書などを提出させ、内容に問題がある場合には改善を促す」と述べた。朝鮮学校だけ教育内容を問うのは明らかな差別であり、「外交上の配慮などにより判断するべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断するべき」とした政府、民主党の見解とも異なる考え方だ。朝鮮学校への「無償化」適用問題の争点や意義について、教育学博士の佐野通夫・こども教育宝仙大学教授に話を聞いた。

−文科省はようやく「適用基準」を発表した。しかし、教育内容を問わないことが一部反発を招いているようだが?

 文科省の対応や首相、大臣の発言を見ても、差別しているという実感がないことが問題だ。そもそも朝鮮学校が問題にされること自体おかしい。

 朝鮮学校の生徒たちは4月に「無償化」の対象から除外され、8月には首相の指示で結論が先送りされた。菅首相や高木文科相は何よりもまず、朝鮮学校の子どもたちを差別し、数カ月にわたり不安を与えていることについて謝罪すべきだ。

 「高校無償化法」の「就学支援金」は子どもたちに支払われるもの。子どもたちは日朝間の政治問題とは無関係だ。「朝鮮に誤ったメッセージを送るものだ」という指摘は当たらない。しかも、他の外国人学校については教育内容を問うていないのだから、朝鮮学校についてだけ問題にするのはおかしい。

−朝鮮学校への補助金(教育助成金)支給を見直す動きがあるが?

 そもそも、日本政府が国庫助成を行っていないことこそが問題なのであって、歴史的経緯をしっかり知るべきだ。

 日本政府は、「サンフランシスコ講和条約」発効(52年)をもって在日朝鮮人は「外国人」になったので公費を支出する義務はなくなったと主張した。60年代には、朝鮮学校弾圧を企図した「外国人学校法案」が国会に上程された。同法案は、日本人と朝鮮人の連帯したたたかいで7度、廃案となった。一方、朝鮮人が具体的に住民として暮らす各地方自治体では、朝鮮学校の公益性を認め、各種学校として認可し補助金を拠出した。そして、JR通学定期券、スポーツ大会への参加、大学受験資格など権利獲得が広がった。

 今回の国による朝鮮学校に対する差別、一部自治体の首長の間違った行動はこうした日朝連帯の成果に水を差すものだ。在日朝鮮人に対するいじめは、朝鮮を仮想敵とするもので、時代の閉塞感から人々の目をそらすために、外に敵を作った戦前の状況と同じで、とても危険だ。

−税金が投じられるのだから文科省の指導に従うべきとの意見もあるが?

 子どもに必要なことを教えるのが教育だ。教育は自由であるべきで、外国人学校や民族学校の自主性が重んじられなければならない。「カネを出すからモノも言う」ではいけない。

 文科省等によれば日本の教育は学習指導要領に基づいて行われると主張されている。これは、当初は「試案」として出されながらも徐々に「法的拘束力」を主張されてきた。そして一般的に「法的拘束力」が主張されるよりさらに前の1949年の朝鮮学校閉鎖において、その基準性が主張されている。しかし、「無償化」が対象としている専修学校や各種学校については、高校のような学習指導要領はない。他の外国人学校は不問にしておきながら、朝鮮学校だけに当てはめようというのは明らかにおかしい。

 例えば、朝鮮学校で国語は日本語でなく朝鮮語。歴史や社会もしかり。なのに、国が学習指導要領に基づいた教育を押し付けると、民族教育の価値が損なわれる。一貫して同化政策が取られてきたなかで、在日朝鮮人の子どもが日本学校に通っても朝鮮語や民族心を身につけるのは難しい。政府は、外国人学校や民族学校を制度的に保障すべきだ。(※)

−日本の教育政策との関連は?

 日本の教育は「兵隊作り」(考えずに命令に従う)という点で昔と変わっていない。学習指導要領や全国一斉学力テスト、教職免許更新制など、政府は教育に対する統制をより強めている。そればかりでなく、日本の教育は、熾烈な受験争いの影響で学習指導要領の下に「輪切り」「画一化」されている。

 憲法や教育基本法が施行(1947年)される以前は、教育に関する事項は勅令によって定められていた。とくに戦前、戦中は天皇の下に同一の教育を行うことが教育であるとされていた。「教育はお上が決めるもの」という意識は今も根強い。60、70年代はこれらに対して現場からの批判が強かったが、それも次第に弱くなってしまった。

 朝鮮学校への「無償化」適用問題は、こうした流れの中で発生した深刻な問題だ。朝鮮学校の教育内容への口出しを許せば、他の外国人学校にも広がる可能性がある。そればかりでなく、日本の教育のあり方を問う問題である。日本人自身が危機感を持って教育について考えていかなければならない。 (聞き手・李泰鎬)

※参考:外国人学校の制度的保障を

 日本には200校以上の外国人学校があるが、朝鮮学校など各種学校として認可されている学校とされていない学校の間には、補助金、大学入試資格、通学定期券、スポーツ大会参加などの扱いに大きな差がある。同じく各種学校として認可されている学校間でも、欧米系のインターナショナルスクールに対する寄付が免税など優遇措置を受けている一方、朝鮮学校や中華学校は対象から外されるといった差別がある。各地の学校関係者、弁護士、研究者、市民による「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク」は、「外国人学校振興法」の制定を訴えている。外国人学校を日本の教育法上の「正規の学校」として位置づけ、教育の自主性を尊重し、差別せず「一条校」と同等に扱うことを主な内容としている。

[朝鮮新報 2010.11.17]