〈100年を結ぶ物語・・・人々の闘いの軌跡・・・F〉 「高校無償化」問題 |
朝高生たちの訴え
「私たちも同じ高校生です−」 7月27日、各地9校の朝鮮高級学校の生徒たちが文科省を訪れた。4月1日から実施された「高校無償化」法案の対象に、朝鮮学校を含むよう求めるためだった。「勉強して、部活動に励んで、友だちと楽しく会話して…。どうして、同じ高校生なのに私たちだけが?」−朝高生たちは、「無償化」からの差別的な朝鮮学校除外に対し、悲しみと憤りで満ちていた。その痛切な訴えは、文科省の関係者たちに届いただろうか。 各地の朝高生たちは、「私たちの力で必ず権利を勝ち取ろう」と、4月に「全国朝鮮高級学校学生連絡会」を結成。放課後や部活動を終え、街頭に出て、署名活動を繰り広げた。本来ならば勉強や部活動に専念すべき生徒たちが、自身の処遇改善を求め、街中で声を上げることは極めて非情な光景である。生徒たちの懸命な呼びかけに、「がんばってね」「応援しているよ」と激励の言葉をかけてくれる人、ジュースやドーナツなどを差し入れてくれる人、署名用紙を持ち帰ってくれる人、自らビラ配りに参加する人など、たくさんの日本市民たちが呼応してくれた。 中には、一部の心ない発言、学校への脅迫文や嫌がらせなどもあった。しかし、朝高生たちはめげることなく、なお声を高め果敢に活動を行った。「毎日、署名を渡しにきてくれる労働団体の方、休日に街頭に出て署名を呼びかけてくれる日本学校の教員…。温かく支えてくれる日本市民と接するたびに、私たちの主張は間違っていないことを実感した」(崔慶雅さん、愛知朝鮮中高級学校3年)。
オモニたちの努力
「子どもたちをこれ以上傷つけないでほしい」。この問題にオモニたちも粘り強く取り組んだ。仕事や家事の合間を縫っては街頭に立ち、国会や文科省へ足を運び、国連欧州本部(スイス)でロビー活動を行い…。ありとあらゆる方法で日本政府の在日朝鮮人に対する差別是正を訴えてきた。 その活動のかいあって、6月12日に発表された国連子どもの権利委員会による日本政府への勧告事項には、民族的マイノリティに属する子ども、日本国籍を有しない子どもなどへの社会的差別をあらゆる分野で解消するよう求めるなど、朝鮮学校を対象とする事項が数多く含まれていた。 「無償化」問題の浮上直後、オモニたちが口々にもらしのは「また…」という言葉とため息だった。朝鮮学校への差別は今に始まったことではない。在日朝鮮人は、日本の植民地支配による産物であるにもかかわらず、戦前戦後を通じ差別がやむことはなかった。祖国解放後、朝鮮学校は「学校閉鎖令」や1965年の文部省次官通達、近年ではJR定期券や大学受験資格問題など、数々の弾圧と差別政策に苦しめられた。 さらに昨今、朝鮮への敵視政策が在日朝鮮人の人権侵害と民族教育への抑圧政策に集中的に投影されていく過程で、「高校無償化」問題が起きた。しかし、オモニたちは、落胆と失望では終わらなかった。決して諦めず、退かなかった。日本政府への強い怒りと子どもたちへの愛情をバネに、国会議員や文科省役人を前にしても毅然として訴えてきた。 友好の一歩を 「これを機に、民族差別がなくなってほしい」。逆境を逆手にとって、生徒たちもオモニたちも朝鮮学校の存在、その「本当の姿」が広められるよう励んだ。その努力が実を結び、日本市民たちの間に共感の輪も広がっていった。 広島朝鮮初中高級学校・高級部3年の黄希奈さんは、要請の席上で「私たちは、朝・日間の友好のかけ橋になる存在だと思う。『韓国併合』から100年、差別や偏見をなくし、真の平和と友好関係を築くべき年にその第一歩を刻むためにも、『無償化』から朝鮮学校を外すことがあってはならない」とアピールした。 朝・日間の歴史が暗転した「韓国併合」から100年。その節目にあたる今年、朝鮮学校への「無償化」適用いかんは、歴史的にも大きな重みを持つ。(姜裕香記者) [朝鮮新報 2010.8.21] |