「子育てアッパ」を訪ねて 家事、育児を引き受けて |
自分の生き方をお手本に 近年、同胞社会でも子育て問題に大きな関心が寄せられている。2008年から朝鮮学校付属幼稚園に入園する保育班の園児たちを対象に、総連から子育て支援金が支給され、日本各地に設けられた17カ所の幼児教室(7月現在)では、学齢前の同胞幼児たちが朝鮮の歌や言葉に触れ、民族的情緒を育んでいる。 一方、日本の社会では、「子育てパパブーム」が起こっている。自治体などから「父子手帳」も配布され、父親の子育てへの積極的な関わりが奨励されている。少子化の社会問題化、ライフスタイルの変化などがこれらの背景にある。 同胞社会の子育て事情はどうか。「子育てアッパ」たちの話を岐阜県で聞いた。 洗濯、子守り、後片付け
岐阜県各務原市の柳英守さん(35)は、9月に第2子の出産を控えた広美さん(38)と勇成くん(4)、自身の両親( 一さん/67、花子さん/64)の5人家族で暮らしている。職場兼住居の1階は、父の代から築き上げた焼肉店だ。営業日は、英守さんが9時〜22時、広美さんが11時30分〜20時30分まで店に出ている(14時〜17時は昼休み)。 「家では、ゴミ出しは店のぶんも含めてアッパがする。洗濯機が1階にあるので、洗濯物を持っていって上がってくるのもアッパの役目。干すのは私」と広美さんは言う。結婚当初、英守さんの帰りは深夜2時を過ぎていたので家事はすべて広美さんがやっていた。 「夫はとてもまめな人。家事をためるのが嫌で、洗い物はこまめにやる。部屋の模様替えも気が向いたらいつでもする。早朝5時からタンスとベビーベッドを動かして、子どもの遊び場を広くしたり、店でランチを出さない土日は子どもを連れて公園へ行ったり。子どものためには自分の時間を惜しまず使う」と言う。 一方、彼女はある程度家事をためてからするタイプで彼とは逆だ。思いついたら行動する夫の家事は大雑把。ためてから動く妻の家事は丁寧。店の仕入れや仕込みは夫の役目で、帳簿付けは几帳面な妻が引き受ける。バランスの取れた良い関係だ。
息子を朝鮮幼稚園へ
勇成くんが生まれて1カ月の頃、英守さんはくも膜下出血で倒れ、1カ月間の入院を余儀なくされた。「死んじゃいけない、生きとかな…せっかくアボジになったんやから」と、一命を取り留めた。 2歳から日本の保育園に通い始めた勇成くんに、「朝鮮幼稚園」の誘いが来たのは昨年のことだ。日本人の広美さんは困惑したが、同胞女性の「子どもの教育について、夫婦でちゃんと話し合っている?」との言葉を聞いて、英守さんと向き合った。夫は母校の岐阜朝鮮初中級学校付属幼稚園へ入れたいという。数回の見学を経て、息子を朝鮮幼稚園へ入園させた。 「入れてみると、すっごく良かった。何より子どもの笑顔が絶えない。保育園の頃は私が聞かないと会話もあまりなかったが、今では自分からどんどん話す。『オンヘヤ』を歌いながら絵を描くことも。保育園では20人クラスに担任が3人で、朝鮮幼稚園では異年齢の子ども6人に先生が1人。先生の気配りが細やかで、子ども自身、自分の存在感を大きく感じているようだ」と広美さんは話す。 時には子どもに厳しく接する先生は、親に対してもキメ細かな要求をするという。「例えば、ハサミを使うのが苦手なので、家で練習をさせて下さいとか。具体的な課題をくれるので、以前に比べ親子のコミュニケーションが深まった。初めての子育てはわからないことだらけ。先生の指摘で気づかされることも多い」。 毎朝のお弁当作りは広美さんもしくは祖母がやっている。通園バスに乗り、往復4時間の長い道のりを勇成くんは一度もしぶらず通っている。 身重の妻をいたわり、店はもちろん、家事や育児の多くを引き受けている英守さんに広美さんはいつも感謝の気持ちでいっぱいだ。 「これほど家庭的な男性はいないと思う。岐阜には友達もたくさんいるのに、何より家族を大事にしてくれる。頼もしい夫であり父親でもある」。一方、英守さんは、「昔から両親が商売をしていて、子どもの頃はあまりかまってもらえなかった。独身時代に8年間一人暮らしをしながら、いろんな人にいろんな人生を教わった。僕はできる限り家族に関わりたいし、子どもと一緒に過ごしたい」と語った。
男の子育て
羽島市の徐鐘守さん(43)一家は、潤奈ちゃん(長女、初3)、智堅くん(長男、初1)、竜堅くん(次男、年少)と妻・柳英美さん(40)で暮らしている。 建築業を営む鐘守さんは毎朝7時前には家を出て、帰宅するのは20時頃。専業主婦の英美さんは、3人の子どもを育てる傍ら、岐阜初中オモニ会の役員として熱心に活動している。 鐘守さんは、「家事や育児の一切をオンマに任せている。子どもに関しても細かいことには口を出さない」のがモットーだ。理由は、「体験を持って子どもに理解させるのが一番だから」。大人にとって駄目なことでも、経験のない子どもには、いくら説明しても理解できないことが多い。鐘守さんは、「子どもには体験を持って事の良し悪しを分別できるよう育って欲しい。何かをする前から大人が口出しして指図をしていたら、子どもは受身になるばかりで何も自分一人じゃできなくなる」と考える。 また、日本学校出身の鐘守さんは、05年から朝鮮語の学習にも励んでいる。今では文字はすべて読め、ノート1枚文なら5分で書き写せるようになったという。また、妻が風邪で寝込むと、子どもと一緒に台所に立ち、カレーライスを作ることもある。実は料理の腕前はプロ級で、調理師免許も持っている。「料理はその辺の主婦より上手い」との自信もある。しかし、「料理はいつでもやれるがあえてせず、俺が料理をするなら食べに行こう!」というのが「鐘守流」だという。「何よりも頼もしく、支えになってくれている」(英美さん)ことが家庭円満の秘訣かもしれない。 岐阜市の尹智繧ウん(36)、李春姫さん(34)宅では、息子の太吾くんが1歳の誕生日を迎えたばかりだ。兵庫県出身の春姫さんが慣れない土地で子育てに専念する中、智繧ウんは妻の気持ちを汲み取り、気分転換で外食に誘ってくれたり、家にいる間は子どもの相手をしてくれたりするという。「夫は毎朝8時半には家を出て、帰宅するのは午後8時。いつも見るのは子どもの寝顔…。本来優しい人なので、本当はもっと子育てに時間を割きたいと思っているはず。でも、仕事もしなくちゃね」と春姫さんは言う。 最近では、母子密着の育児は母親への負担が重く、閉塞した状況が子どもの社会問題を生み出していると指摘されている。格差社会、不安定雇用、長時間労働…。子育て世代の不安や悩みは尽きないが、「子育ては母親の仕事」と割りきらず、自分なりの方法で子育てに関わっているアッパたちの姿勢には好感が持てた。(金潤順記者) [朝鮮新報 2010.8.6] |