〈教室で〉 茨城初中高・中高級部 数学担当 崔玲淑先生 |
あきらめず問題に取り組んで 自分の力で解く喜び与えたい 乗法公式
(a+b)2=a2+2ab+b2 茨城朝鮮初中高級学校(茨城県水戸市)高級部1年の数学の時間。黒板には4通りの乗法公式が書き示され、崔玲淑先生(45)が丁寧に授業を進めていた。 「ここまでは中3で習ったもの。公式を忘れてしまった場合は、分配法則でも計算できます」 この日の授業では、「(ax+b)(cx+d)」という新しい乗法公式を学んだ。分配法則を使うと、まず「acx2+adx+bcx+bd」となり、これを「acx2+(ad+bc)x+bd」にまとめられる。 崔先生の話によると、「X」の前に係数がないのが中学まで、高校からは「X」の前に係数があるものを学ぶ。いくつかの練習問題を与えると、生徒たちはいっせいに問題を解き始めた。全問解き終えた生徒から前に出て黒板に答えを書く。 全員で答え合わせを終えると、崔先生は「22×18」を乗法公式を使って計算する方法を生徒たちとともに考えた。 「22×18=(20+2)(20−2)=202−22=400−4=396」 暗算で2桁ずつの掛け算をするのは大変だが、乗法公式を使えば確かに便利だ。納得したのか生徒たちの表情がパッと明るくなった。 授業の最後に出した問題は、「20052−2007×2003」。生徒たちはみな机に向かい一生懸命、計算している。机間巡視をしていた崔先生は、「2人の正解者がいるわ。でも、一生懸命計算したみたい。公式を使えば簡単に答えが出るのに。公式を使って、簡単に答えを出す方法を考えてみて」と声を掛ける。 残念ながらここで終業の鐘が鳴った。答え合わせは次の時間へ繰り越されることに。全員起立で授業が終わると、2人の男女がほぼ同時に、「あ〜、わかった!」「なるへそ!」と声を上げた。先ほどの正解者だろうか。生徒たちを見て、崔先生が微笑んでいた。
数字で学ぶこと
同校で数学教員をして23年目を迎えた崔先生。自身の母校ということもあって人一倍愛着が強いという。 「中・高級部の数学は、『考える力』を身につけるうえで大きな役割を果たしている。私たちが暮らす情報社会では、必要とされるものを選択し、整理する力を養うことが求められている。その基礎的な知識を身につけるうえで数学は、わからない問題や初めて接する問題を解くきっかけを与えてくれる。初級部の頃に学んだ、足す・引く・掛ける・割るに加えて、それらを応用して論理的な思考を深める訓練を積み上げるのが、中・高級部の数学が持つ重要なテーマとなっている」 近年、数学や理科を苦手と感じる子どもが増えつつある中、崔先生の目にも「考えること」自体を面倒くさがり、答えだけを求める傾向が見えるという。 「世の中があまりに便利になりすぎて、物事を深く考えることが難しくなってきた。パソコンなら、クリック一つで答えが簡単に出るけど、学校ではあえて『面倒くさい』作業に取り組ませている」。それは、「練習、練習、また練習。その繰り返しが力になる」と考えるからだ。
中級部の壁
算数から数学へと切り替わるのは中級部から。ちょうどその時期は子どもたちの思春期や反抗期と重なり、学習態度にも個人差が出てくる頃だ。崔先生は集団生活の中で、この時期にどれだけ「面倒くさい」ことを積極的にさせるかが大事なポイントとなると考える。 常に子どもたちにわかりやすい授業を心がけ、初級部、中級部から高級部に上がったときに授業で大きな飛躍がないよう注意を払っている。 「私の授業は高級部としてはちょっと親切すぎるかもしれない。でも、初中級部で学んだものを常に振り返ることで、『数学=苦手』『考える=面倒くさい』という先入観をぬぐい去りたい。途中であきらめず少しでも考えることや発見することが楽しいと感じてもらいたい」 そのため初中高級部併設の特色を生かして、初級部の授業もよく観に行く。すると、「原点はここにある」といつも思う。 「子どもたちに知る喜びと、問題を自分の力で解く喜びを感じてもらうのが私の目標。そのため、少しでも達成感を味わえるよう、授業を工夫している。これからも、子どもたちがあきらめず問題に取り組み続ける科目にしていきたい」と笑顔で語った。(文=金潤順、写真=文光善記者) ※プロフィール 1965年生まれ。茨城朝鮮初中高級学校、朝鮮大学校理学部(当時)卒業。茨城初中高で中高級部の数学を担当する。今年1月、「模範教授者」に選ばれた。 [朝鮮新報 2010.5.21] |