「高校無償化」 自由人権協会が緊急声明発表 「教育内容で選別」は違憲 |
社団法人自由人権協会は25日、「高校無償化法の対象となる外国人学校の選別基準に関する緊急声明」を発表した。 日本政府は、「高校無償化法」施行時点においては朝鮮学校を対象から外し、「第三者機関」で教育内容などを審査した上で、対象とするか否かを判断する方針を明らかにしている。これについて声明は、「外国人学校の選別基準として教育内容を用いることは、憲法違反の疑いが強い」と指摘した。 声明は、「外国人学校の中で朝鮮学校についてだけ教育内容が問題とされようとしていることは、政治的な思惑によって教育に介入しようとするものであり、憲法23条、26条に反しているだけでなく、恣意的な差別として憲法14条に違反する疑いが強い」「今回の朝鮮学校外しは、日本の私立学校との間だけではなく、等しく各種学校である外国人学校の間にも差別を持ち込むものであって、違憲の疑いは大きい」と指摘した。 声明は、国連人種差別撤廃委員会が15日に公表した対日審査最終所見についても言及し、「日本は、国際社会において名誉ある地位を占めるためにも、高校無償化法の対象となる外国人学校の判断にあたっては、法の恣意的な運用を行うことなく、教育内容ではなく、外形的・客観的基準によって決定すべきである」と指摘した。 声明の全文は以下のとおり。 高校無償化法案(公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案)は、参議院における審議が始まったが、政府は、4月1日に予定されている同法の施行時点においては、朝鮮学校を無償化の対象から外し、「第三者機関」を設置してその教育内容等を審査した上で、対象とするか否かを判断する方針を公にしている。 しかし、外国人学校の選別基準として教育内容を用いることは、憲法違反の疑いが強いものである。 同法案は、「高等学校の課程に類する課程」を置く専修学校及び各種学校も制度の対象とし、その具体的範囲については文部科学省令で定めるとしている(法案2条1項5号)。この「高等学校の課程に類する課程」かどうかの判断は、学校教育における「同等性」の問題であり、外形的・客観的基準によって判断されるべきものである。 これと同様に「同等性」が問われる大学入学資格について見ると、学校教育法90条1項で、この資格は、「大学入学に関し、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認められる者」に認められるとされ、同項の内容は、同法施行規則150条により「@外国において学校教育における12年の課程を修了した者又はこれに準ずる者で文部科学大臣の指定したもの、A(略)、B専修学校の高等課程(中略)で文部科学大臣が別に指定するものを文部科学大臣が定める日以後に修了した者(以下略)」と具体化されている。 日本にある外国人学校の修了者については、@の「準ずる者」として、文部科学大臣が「告示」により「我が国において、高等学校に対応する外国の学校の課程(中略)と同等の課程を有する(中略)教育施設を修了した者で、18歳に達したもの」と指定しており、日本政府が当該学校の教育内容を審査することはない。また、Bの専修学校高等課程についても、「修業年限が3年以上、修了に必要な総授業時数が2590時間以上」と外形的・客観的基準によって指定されている。このように、大学入学資格の指定において外国人学校の教育内容を審査して「同等性」を認定することとはされていないのである。 ところが、今回の高校無償化法の対象とすべきか否かの判断に際しては、外国人学校の中で朝鮮学校についてだけ教育内容が問題とされようとしている。これは、同法の本来の趣旨を離れて、政治的な思惑によって教育に介入しようとするものであり、憲法23条、26条に反しているだけでなく、恣意的な差別として憲法14条に違反する疑いが強い。 高校無償化法案は、日本が批准した社会権規約13条2(b)に定める「無償教育の漸進的な導入により」、「すべての者に対して〔中等教育の〕機会を与えること」を実現しようとするものであり、また、「教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与すること」(法案1条)を目的としている。そして、同法案に基づく就学支援金の受給権者は「生徒又は学生」(法案4条1項)であり、学校は、事務処理の便宜上、それを代理受領するにすぎない。それにもかかわらず朝鮮学校をこの制度の対象から除外するならば、それによる経済的不利益は、朝鮮学校に通う生徒及びその保護者に生じることになる。これが本制度の趣旨を没却するものであることは明らかである。 また、外国人学校は外国籍・民族的マイノリティの子どもの学習権実現に不可欠の存在であり、子どもの権利条約30条、自由権規約27条、及び憲法23条及び26条により、教育の自由(教育権)は外国人学校にも保障されている。そして、朝鮮学校に通う生徒らには、日本人の子ども及び他の外国籍の子ども達と同様、学習権(教育を受ける権利)が保障されており、この学習権の内容として、その属する民族の言語・文化・歴史・地理等に関する民族教育を受ける権利も保障されているものである。 朝鮮学校を高校無償化制度の対象から恣意的に除外することはもちろん、その教育内容を経済的給付の可否の判断材料にすることは、朝鮮学校に通う子どもの学習権に対する重大な侵害となることは明らかである。また、朝鮮学校のみを不利益に取扱うことは、不合理な差別的取扱として憲法14条の定める平等原則にも反するおそれが強い。特に、今回の朝鮮学校外しは、日本の私立学校との間だけではなく、等しく各種学校である外国人学校の間にも差別を持ち込むものであって、その点でも違憲の疑いは大きいものである。 日本の高校無償化法案における朝鮮学校外しの動きは、国際社会でも注目されており、本年2月15日から3月12日まで開かれていた国連・人種差別撤廃委員会でも取上げられた。 同委員会が、日本政府報告書の審査後、本年3月16日に公表した「総括所見」の中では、懸念を表明する事象の一つとして、高校無償化法案に関する、「一部政治家による朝鮮高校除外を示唆する動き」が挙げられている(22パラグラフ)。 日本は、国際社会において名誉ある地位を占めるためにも、高校無償化法の対象となる外国人学校の判断にあたっては、法の恣意的な運用を行うことなく、教育内容ではなく、外形的・客観的基準によって決定すべきである。 [朝鮮新報 2010.3.29] |