〈民族教育を守る「差別を許さない」−A〉 朝高生の想い |
「朝鮮学校を知らせたい」
「自分の民族について学びたいだけ。朝鮮学校に通う私たちと日本の学校に通う生徒たちはそんなにも違うものなのか」―東京朝鮮中高級学校に通う趙愛玉さん(17)は19日、参議院議員会館で行われた勉強会で目の前にいる大人たちに素朴な疑問を投げかけた。 「私の家は母子家庭です。生活は苦しい。母が少しでも楽になるならば、学校も辞めるべきではないかと考えたこともある」 文部科学省が昨年10月に提出した2010年度の予算概算要求には朝鮮学校を対象として含めた。しかし、中井洽拉致問題担当相の発言を皮切りに朝鮮学校「除外」問題に火がついた。 「『高校無償化』とは、学びたくても学べない子どものためにあるのではないか。拉致や核問題があるからダメだというが、私たちを差別すれば問題は解決するのか」。趙さんは一部の「大人」たちによって学ぶ権利が侵害されようとしていることについて、行き先のない不安とはがゆさをぶつけた。 政府は「高校無償化」のセットとして、2011年1月から16〜22歳の子どもを対象にした「特定扶養控除」のうち、高校生部分(16〜18歳)を縮小した。 現時点で「無償化」適用が保留状態にある朝鮮学校生徒の家庭には、さらなる負担が課せられることになる。 「もし、朝鮮学校が『無償化』から外されれば、当たり前のことを当たり前のように習えない後輩たちが増える。どうか『無償化』適用をお願いしたい」 「何が違うの?」 日本各地には朝鮮学校高級部が10校あり2千人あまり(09学年度)の生徒が在籍している。なぜ経済的負担や制度的ハンデを背負ってまで朝鮮学校に通うのか。 東京中高に通う崔智慧さん(17)の実家は岩手県にある。初級部1年生の頃から親元を離れ宮城県仙台市の東北朝鮮初中高級学校(当時)に通った。しかし諸事情により08年度をもって高級部が休校。この事態を受けて彼女が選んだのは東京中高への転校だった。彼女は母校に通えなくなった寂しさを「無償化」除外騒動に照らし合わせる。 「学費が高くて朝鮮学校に通うことができない生徒が増えれば学校の運営も難しくなる。これ以上、ウリハッキョがなくなるのはいやだ。学校を守りたい」 生徒たちにとっての朝鮮学校は、日本で育つ子どもたちに自然と民族の香りを抱かせてくれる庭であり、朝・日両国の明るい未来を紡ごうとする人材が育つ場でもある。 「チョゴリを着て通学することによって、自分が強く、堂々と過ごせるような気がする」と話すのは林雪洲さん(東京中高、17)。朝鮮学校の象徴であった女子生徒のチマ・チョゴリ姿は02年以降、街の風景から消えていった。チョゴリ着用の女子生徒に対する暴言や暴行が相次ぎ、身辺安全のために「第2制服」が取り入れられたのだ。 「朝鮮学校は私にとって普通の学校なのに、『無償化』から外されるという。いったい何の違いがあるのかと疑問に思う。いろんな人たちにもっと私たちのことを知ってもらいたい」 新たな友情 東京中高は近隣にある帝京高校との親ぼくを深めるため、数年前から同校文化祭で帝京高校生徒との共同展示企画を行ってきた。歴史や文化などをテーマにシンポジウムなどを行い、両国の架け橋になるため友情を培うきっかけとなっている。 今年も6月に文化祭が行われる。20日、東京都内のNPO施設に共同展示企画協議のため、春から3年に進級する東京朝高生徒7人と帝京高校生徒10人が集った。 生徒らは協議の前に帝京高校の生徒が関わった「貧困」をテーマにした講演会に一緒に参加した。その後のグループディスカッションで朝鮮学校の「無償化」除外問題が持ち上がった。グループ内では、除外論争が突出しすぎて朝鮮学校そのものの実像がかすんでしまっているとの意見が出た。視線が朝鮮学校生徒に向けられた。 緊張のせいか、さっきまで口をつぐんでいた朝鮮学校生徒が堰を切ったように話し始めた。 「朝鮮学校に通うことが特別なことだとは思わないし、私も平凡な高校生だ。塾で日本の友だちと勉強を教えあうこともある。なぜ、朝鮮学校ばかりがマイナスイメージにとられるのか。自分の存在を否定されているみたいで悔しいし悲しい」と吐露した。 講演後、本来の目的である顔合わせ。最初のよそよそしい空気は少し和み、生徒らは一人ずつ自己紹介をして携帯電話の番号とメールアドレスを交換した。今後はそれぞれが自由に連絡を取り合い企画を進める。 帝京高校のある男子生徒は、「君たちと話してみて『無償化』除外が差別だということをあらためて実感した。僕たちと違うのは国籍だけでそのほかは同じ高校生だ。鳩山首相も『朝鮮学校』という見かけにとらわれず、君たちと会えばわかるはずなのに」と朝鮮学校の友人たちに話しかけた。 この日、朝鮮学校生徒は3年生が卒業間際に帝京高校生徒に協力を求めた「無償化」除外反対の署名を受け取った。 協議も終わりに近づき、朝鮮学校生徒は新たに署名用紙を手渡した。帝京高校生徒はそれをしっかりと受け取った。(呉陽希記者) [朝鮮新報 2010.3.29] |