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記者会見での発言要旨

金順彦(学校法人東京朝鮮学園 理事長)

 さる1月29日、今年4月からの実施に向け、「高校無償化法案」を今国会に提出することが閣議決定した。

 鳩山政権は発足当初、学校教育法上の各種学校である外国人学校について「高校無償化」制度の対象となり、朝鮮学校も当然に含まれるとしていた。

 しかしながら、2月21日、「拉致問題担当相が、4月から実施予定の高校無償化に関し、在日朝鮮人の子女が学ぶ朝鮮学校を対象から外すよう文部科学相に要請、文科省の政務三役が検討に入った。」という衝撃的な事実が伝えられた。

 実施直前になって朝鮮高校だけを除外しようとする、このような動きに対して、私たち教職員、学生、保護者たちは、大きな驚きと強い憤りを禁じえないでいる。 過去において、朝鮮半島の情勢を口実に、一部心ない人により何の罪もない学生たちに対するチマ・チョゴリ事件や暴言、暴行という犯罪行為が繰り返されてきましたが、今回は、日本政府内において極めて政治的な理由により、民族的差別をあからさまにする動きがあることを、看過することができない。

 日本植民地支配の被害者である在日同胞の子孫であり、日本で生まれ育った朝鮮高級学校生徒たちに対して、このような形で後期中等教育の機会平等の権利すら奪おうとすることは断じて許されないことだ。 半世紀以上の歴史を持つ東京朝鮮学園は、学校教育を通じて、民族的自覚と現代社会のニーズに合致した資質を涵養し、日本をはじめとする国際社会や地域社会の発展に貢献する人材を育てることを教育目標に掲げ、国籍や思想、信条、信仰の違いを問わず、すべての在日同胞子女を受け入れてきた。

 また朝鮮学校では、日本の学校制度に合わせて6・3・3・4制を採用し、学校教育法第1条が定める日本の学校と遜色のないカリキュラムで教育を行っている。

 朝鮮高級学校が、日本の高等学校と同等の教育課程を有しているということは、日本のほぼすべての大学が朝鮮高級学校卒業生の受験資格を認めており、実際、東大や京大をはじめ多くの国公立や私立大学に現役で進学している事実ひとつ見ても明らかだ。

 東京朝鮮学園は創立以来、2万人以上の卒業生を輩出しており、全国の朝鮮高校卒業生は10万人を超えます。彼らは同胞社会はもちろんのこと日本をはじめ国際社会において、経済、文化、芸術、スポーツをはじめとするさまざまな分野で活躍している。

 朝鮮高級学校は、日本の作文コンクールや、英語弁論大会やNHK青春メッセージ、そして夏のインターハイや冬のサッカー・ラグビー全国高校選手権大会にも出場し優秀な成績を収めている。とりわけ2009年度全国高校ラグビー選手権大会で大阪朝鮮高級学校が大阪府代表として全国3位の快挙を成し遂げ、東京朝鮮高校も都の予選でラクビーが決勝、サッカーが準決勝まで勝ち進んだ。

 朝鮮学校を設置・運営する各地の学校法人朝鮮学園は、関係法規を遵守し、寄附行為に基づき学校の設置・運営を行っており、各種学校である他の外国人学校と同様に、所管の都道府県の監督を受け、学校の経理に関する報告もとどこおりなく行っている。

 このように、地方自治体の指導、監督の下で運営している朝鮮学校を、極めて恣意的な理由で「高校無償化」制度から意図的に除外するということは、国際人権規約や日本国憲法の精神に反する不当な民族差別、人権侵害であると断言せざるを得ない。

 もし、朝鮮高級学校だけが「高校無償化」制度の対象から除外されるならば、同じ外国人学校の中に新たな差別を持ち込むことになり、これは、鳩山政権が掲げる友愛や弱者救済の精神、何人にも「学ぶ権利」を保障するとした教育理念を自ら否定することにほかならない。

 私たちは、朝鮮高級学校だけが「高校無償化」制度の対象から除外されることのないよう、日本政府に対し強く要望する。

 最後に、21世紀を生きる子どもたちの未来が一時の政治情勢によって左右されることがあってはならない。鳩山首相は今年の施政方針演説で「命を守りたい」「『人』を大事にする政策を実施する」と内外に宣言しましたが、その理念のとおり、朝鮮学校に通う生徒の学習権が侵害されることのないよう、公正な判断をなされるよう心より訴える次第である。

慎吉雄(東京朝鮮中高級学校 校長)

 今回の報道に接した東京朝鮮高校の教師、生徒の今の心情についてお話したい。 昨年、「高校無償化」は朝鮮高校も対象になるとの新聞報道があった。その時は本当にうれしかった。ところが先日、朝鮮学校は除外すべきだという大臣の発言が伝えられた。

 そのことを生徒たちに話しました。「またしても…」、そんな反応でした。残念だという気持ちを越えて怒りを覚えるという生徒もいた。生徒たちは早速、鳩山首相に手紙を出そう、日本の報道機関に投書をしよう、いや街にでて署名活動を行おう、自分たちが卒業した後にも後輩たち、苦労して朝鮮学校に送ってくれているアボジ、オモニたちの負担を少しでも軽減するために自分たちが先頭に立とう、そのように話し合っている。

 教師たちは、どういう気持ちか。私は東京北区十条にある朝鮮高校に38年間勤めている。その間、1万人以上の生徒が卒業していった。日本学校、朝鮮学校に関わりなく、教師として一番心苦しいのは生徒たちに能力があるにも関わらす彼らの可能性、未来が踏みにじられることである。過去、朝鮮高校のサッカー部は幻のチャンピオンといわれたが、試合に出ることが出来なかった。しかし日本の多くの方の支援を受けて、今ではインターハイにも東京代表として出場することが出来るようになった。大学受験の問題は、皆さんもご承知のとおりである。

 私たちは茨の道を歩んできたといえる。教師たちが、経済的な理由で生徒たちの夢を実現させてやれないことは、大変心苦しいことである。朝鮮高校でも卒業時には生徒たちに卒業証書を渡す。しかし朝鮮学校の運営が厳しい中、(学費などの)滞納金がある場合は、生徒を卒業式には参加させて形式的には卒業証書を授与するが、帰るときに学校に置いていくように言う。これは、ほんとうに悲しいことだ。卒業後、働きながら月に1万円、2万円と滞納分を払い、そして証書を受け取る、そういう生徒たちがいる。

 いままでも在日朝鮮人の生活はたいへん苦しかったのだが、この何年間はさらに厳しい状況にある。それでも親たちは近くにある日本の学校ではなく経済的負担が大きい朝鮮学校で子供を学ばせようとする。日本の方々が自分の子供たちに日本の歴史、地理を学ばせたいと思う気持ちと同じである。

 自分の子供を朝鮮人として育てたい。その思いでがんばっている。だから経済的な負担があっても学校をやめさせることはできない…しかし昨今の経済不況はそれを許さないところまできている。

 朝鮮高校には日本の若者、高校生たちもやってくる。朝鮮と日本の未来を担う若者たちが本校のグランドで一緒に汗を流し、スポーツでたたかい、最後に握手をして涙を流しながら友情を培っている。本校のグランドや体育施設は、高体連主催のサッカー、ラグビー、ボクシングの正式会場として朝鮮と日本の若者たちの交流の場になっている。また、朝鮮高校は地域の日本の方々との交流も深めている。災害時には朝鮮高校の敷地内を全部提供すべく(学校所在地である)北区にも申し入れている。

 民主党のマニフェストに、何人にたいしても教育を受ける権利を保障するという言葉があった。今まで朝鮮高校生は、ほんとうにいわれない差別を受けてきたが、この言葉は勇気を与えてくれるものであった。

 この地で生まれ育った在日朝鮮人3世、4世が民族の誇りを持ち、朝鮮と日本の友好と親善のため、日本の地域社会で手を取り合いながら活躍していく、今回の「高校無償化」制度はそのような未来に繋がるものだと思う。

神奈川朝鮮中高級学校 保護者

 朝鮮学校を「無償化」に対象から除外するという報道を見て、なぜこんなことになってしまうのか、深い不安を抱いている。

 鳩山政権は「友愛」の精神を語っています。この政権はわたしたち在日朝鮮人にも希望を与えてくれるのではないか、朝鮮学校で学ぶ子供たちの親たちは、そういう気持ちを抱いていた。「子供手当て」や「高校無償化」の政策が打ちされる中、わたしたち在日朝鮮人も当然、納税者ですのでそういった恩恵が必ずあるものと信じていた。つい先日まで何の疑いもなく、そう考えていた。ある大臣が朝鮮学校を「無償化」制度から除外するという発言をする、なぜ政治を学校の問題と関連させるのか、朝鮮学校の生徒たちにまたしても政治の影響が及んでしまうのか、保護者としては、とても残念でならない。政治的なことでいろいろな考えをもっている議員の方もいらっしゃるとお思う。しかし、なぜそれが子どもたち、普通に生き普通に学んでいきたいと思っている子供たちに向けられるのか。

 わたしはオモニ会という保護者の会の会長をしているが、オモニ会は朝鮮学校の運営を少しでも助けたい気持ちで、様々な活動を行っています。バザーなどを開催し、売店を出して食べ物をて売ったりして、わずかなお金を集めて、子供たちが使うサッカーボールや運動会の道具、図書室の本などを購入した。自分たちの力で、いままでコツコツ活動を重ねてきた。

 朝鮮学校は、日本の公立学校に比べると負担が大きい。学費以外にも学校の備品をそろえるために親たちがオモニ会の活動などを通じてそういったお金を集めている、そういう現実を多くの日本の方々に知っていただきたい。

 私たちの学校が「高校無償化」制度の対象となるかもしれない、ということは私たちにとっても、支えになるんです。普通に生きていくことができるんです。「友愛」の精神の説いている鳩山政権に、ぜひこの私たちの気持ちをわかっていただきたい。すべての子供たちに対して何の差別もなく、学ぶ権利を保障していただきたい。

 こういった朝鮮学校を排除するという記事が新聞などに載ると、子供たちは学校に行くのが不安になる。わたしの娘も、あの記事を見て「オモニ、『朝鮮学校』という文字がこんなに大きくでているね、また朝鮮学校にいやがらせの電話がくるのかな」−こういったことをもらしている。

 わたしも朝鮮学校に通った。あの時代は、チマ・チョゴリを着て登下校していた。しかし今、日本の社会では民族衣装を着て堂々と電車に乗ることはできなくなった。そういった子どもたちの不安を取り除くためにも朝鮮学校だけを外すといった意図的な政策は辞めていただきたい。心から願っています。

東京朝鮮中高級学校 保護者

 わたしも鳩山首相の「友愛」を基調とした所信表明演説を聞いた。胸が躍り、希望に満ち溢れた。

 朝鮮学校は、各種学校という位置づけではあるが、「一条校」となんら変わらないカリキュラムが実施している。生徒たちも一生懸命学んでいる。

 朝鮮学校は、未来の日朝の架け橋となるそういう人材を育てている。それなのに一部には心ない発言をする人たちがいる。そういう人たちに言いたいことは、両国の架け橋となる貴重な芽をつぶさないでいただきたいということだ。

 朝鮮学校の運営は、多く部分が寄付に委ねられている。教員たちの給料もままならないという事情は、父兄たちもすべて知っている。朝鮮学校で民族について学ばせよう、そういう気持ちがあっても昨今の経済事情により朝鮮学校に通わせられない、そういった家庭も多い。

 ぜひみなさん、子どもたちの未来、日朝の未来を考えていただきたい。

東京朝鮮中高級学校 保護者

 「高校無償化」という言葉が世の中に出たとき、私自身も「よかった、だけど、(私たちはまたも除外されるのでは)」という不安を覚えた。こういった問題がでるときに必ずそういう気持ちが沸き起こる。そういう体質に私たちの世代はなってしまっている。

 でもスポーツの全国大会に朝鮮学校の子どもたちが日本の学生たちと一緒に出場する姿などを見ていると「それでも変わったんだな」と感じる。自分と同じ体験を子どもたちにはさせたくない、それが親の気持ちである。

 私たちが学生のころは、先輩のお母さんたちが、JR定期券の差別是正問題などで運動に取り組んでいた。今でも日本の友達のお母さんたちと話をすると「えっ、朝鮮学校ってそんなこともしてもらえていないの」という反応が返ってくる。

 権利は少しずつ認められてきていた。そこに今回の報道が…。この問題についてどう思うか、息子に聞いたら、彼はこう言った。「なんで朝鮮学校って名指しなの、外国人学校は他にもあるのに、これって差別だよね」−素直にこう言った。私たちが何度も体験した辛い思いをまた、この子たちにもさせてしまうのか、親としては、それはほんとにいたたれない。

 朝鮮の子どもたちも、ほんとうに日本の子どもたちと何ら変わりない。去年、朝鮮高校で文化祭があった。私の息子も舞台で歌を歌う機会があったが、近所の帝京高校の女子生徒と一緒にセッションをした。彼らはスケジュールを合わせ、自主的に練習を組んだりしながら、舞台を輝かせるために懸命だった。お互いをもっと深く知ろうと、このように交流を深めている。子供どもたちはなんの隔たりもなく、この社会に生きてながら朝・日の関係を発展的に築いています。

 みなさんが考えている以上に、朝鮮学校の運営は大変です。そして学校の運営に迷惑をかけている家庭も少なくない。なんで、そこまで苦労して朝鮮人として育てたいのか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれないが、みなさんが子どもたちを自国の文化を大切にしながら、他民族の文化も敬う国際色豊かに育って欲しいと思う気持ちと同じである。

 ある人間をどのように育てたいか、その育てていくプロセス、環境こそが教育というのだと思う。それを奪う権利は誰にもない、こうしろという強制する権利もないと思う。

[朝鮮新報 2010.2.26]