〈虫よもやま話-30-〉 法医昆虫学 |
「死体につく虫が犯人を告げる」 唐突ですが、新報の神聖なる紙面にふさわしくない文章を載せてしまいました。 これは2002年に草思社から出版された本の表題です。しかし、興味をそそられた方もいらっしゃるのではないでしょうか? 今回は近年その成果が注目され始めた「法医昆虫学」のお話です。 地球上のありとあらゆる資源を食物としてうまく活用している昆虫類ですが、動物の死骸や排泄物ももちろん、彼らにとって見逃せない資源の一つです。 熱帯へ採集に行くと、動物性腐食物や排泄物を地表で見つけ出すのがほとんど困難だと耳にします。それはいわゆる「掃除屋」「葬儀屋」と呼ばれる昆虫たちがこれらに素早く反応し、争奪戦を繰り広げてあっという間に片付けてしまうからだそうです。野外で大便などをすると、その臭いで排泄中に糞虫類が集まってくることもあるようで、ぜひとも経験してみたいものです。 さて、本の表題からも推測できるように死体にも昆虫たちはやってきます。動物界で最も早い訪問者と言えるでしょう。 とくにハエ類の中には、腐敗が始まってから5分程度で死体を見つけ出し卵を産みつける種がいるらしく、その探索能力は脅威としか言えません。そして、このような死体についたハエやその他の昆虫類を採集し、「それらの成長段階を基に死亡推定時刻を推測する」ということが、法医昆虫学に求められる仕事の一つです。 実際、死体遺棄事件などにたびたび貢献しているそうです。また、昆虫類は成長する過程で脱皮をするため、その殻が必ず現場に残ります。もしも生前に麻薬などの薬物を使っていた場合、その死体の一部を食べた昆虫の脱皮殻からも薬物成分が検出され、これが重要な手がかりになるそうです。 いかがでしょうか? この分野、まんざらでもなさそうですね。 「自分が死んだらジャングルで甲虫たちの手によって埋葬されたい」 これは、もし生物学分野にノーベル賞があれば最も受賞にふさわしいと期待されながら急逝した進化生物学者−ウィリアム・ハミルトン博士の言葉です。 私も年を重ねるにつれ、そう思えるのかもしれません。 それにしても虫好きって本当に変わっています。でもそれくらい昆虫たちが魅力的で、だから本当に大好きです。(韓昌道、愛媛大学大学院博士課程) [朝鮮新報 2010.2.12] |