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「英雄携帯電話」

 平壌市中心部から数十キロ離れたとある工場を取材中、カメラが故障した。あいにく予備のカメラを持ち合わせていなかった。それでも当然、生産工程は進む。被写体となる生産物がこちらに向かってきた。これを逃すと次は数時間後。予定も詰まっていたため、実質的に最後のシャッターチャンスだった。

 あれこれ手を尽くしたが一向に直らない。工場の広報担当者は「早くカメラを!」と急かす。支局の現地スタッフは「どこかにカメラはないのか!」と顔を強張らせ慌てふためいた。

 現場に緊張が走ったその瞬間、現地スタッフのポケットから怪しげな音楽が漏れてきた。取り出したのは携帯電話。

 「カメラ付きであってくれ」

 そう願ったのは記者だけかもしれないが、すぐに携帯電話を奪い取った。そこにはしっかりカメラ機能が付いていた。こうして無事「シャッターチャンス」を逃さずに済んだ。

 現場の写真は、記事の内容を証明し補足する重要な「証拠」。それを確保できたことに一同、安堵した。携帯電話の普及がこんなところでも役立った。

 当の携帯電話には現場にいた一同から「英雄称号」が与えられた。一方、傍らに置かれたデジタル一眼レフカメラは「電気炉にぶち込むか、スクラップにするか」と笑いものにされてしまった。

 従業員の視線を釘付けにした「英雄携帯電話」の主は、平壌以外でも電波が入ることに驚いていた。絶好のタイミングで電話をかけてきてくれた妻に理由も告げず感謝していた。(泰)

[朝鮮新報 2010.2.8]