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別離を恐れず

 「人生に別離なくんば、誰が恩愛の重きを知らん」

 20年以上もまえ、新聞でふと見かけたこの言葉が今でも頭に焼きついている。

 それが著名な人の言葉なのか、あるいは有名な著書から引用されたものだったのか、まったく覚えていない。

 ただ当時20代後半だった私に強い印象を与えた言葉だった。

 幼い頃にアボジを病気で亡くした私は、アボジのいる友人たちが羨ましくて仕方なかった。ところがアボジが健在である友人たちにとっては父親はいるのが「当たり前」。父親を恋しがる私の心情はきっと想像しづらかったろう。

 早過ぎた別れがかえってアボジへの思いをいっそう募らせたのだ。

 だからいま、わが娘のアッシイくん(ちょっと古いかしら)となりさがり、限りなく娘に甘いナンピョン(夫)を見ていると「そんなにかわいいものかしら、娘って」と不思議な気さえしてくる。

 うちのオモニは働きづめだったから、子どもをかわいがる余裕すらないように見えたし、私たちは早く大人にならざるをえなかった。早く伴侶を見つけて独立したいと願ったものだった。

 いまは40歳を過ぎても独身で親と同居している男女が驚くほど多い。

 「家が居心地良いんだろうな〜」と思ったりもする。うちの息子、娘もそうなりはしないかと最近は不安がよぎる。

 痛みの伴わない別離はないが、その痛みこそが人間を大人にする。親との別離、住み慣れた環境との別離。

 別離を恐れず、果敢に人生を歩んでくれたらと、切に願うこの頃だ。(李春伊、会社員)

[朝鮮新報 2009.6.26]