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伝えられなかった思い

 人間は限りある時間を生きている。けれども、健康な人間が日常生活の中で「限りある時間」を意識することはあまりないだろう。

 つい最近、近しい知人が亡くなった。70歳を超えた在日1世の女性だが、童女のように天真爛漫で太陽のように温かい人だった。2年前からガンを患い、入退院を繰り返しながらも変わらぬ明るさに、かえってこちらが励まされるような人だった。

 ひとつ悔やまれてならないのは、お世話になりっぱなしだった彼女に、感謝の気持ちを一度も伝えられなかったこと。日に日にやせ衰えていく彼女を見舞いながら「今生の別れ」が遠くないことを感じつつも、ありふれた言葉しか出てこなかった。懸命に闘病している彼女に、「もうすぐお別れですね、今までコマッスムニダ」などと、どうして言えよう?

 もたもたしているうちに別れは突然訪れた。

 まるで生きているかのように美しい顔を見た途端、涙が溢れて止まらなかった。

 済州道で生まれ、激動の時代に愛国事業に奔走する夫を支え、5男3女を育て上げてトンポトンネでいつでも同胞たちのために世話を焼き、手作りのキムチととびきりおいしいスープで人々に元気をくれた人。肩書きも地位もなく、ただその人間的魅力で人々を惹き付けてやまなかった人。

 伝えられなかった感謝の思いは涙となって今も溢れるけど、私もあなたのように「限りある時間」を精一杯生きて、潔く逝きたい。(李春伊、会社員)

[朝鮮新報 2009.3.19]