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癒し

 2年前に足の手術のため入院することになった。当時はモンゴル歌劇場で新しい演目に出演が決まりかけた時で、残念な思いで気持ちは沈んでいた。一日早く手術を終えた私は、同室の高齢の女性からお願い事をされた。

 「明日は私の手術の日なの。怖くてたまらないので手術室に向かう前に歌を歌ってくださらないかしら?」

 私がオペラやコンサートに出演していると聞き、緊張をほぐすために歌ってほしいとの事。全身管が入ったまま歌うのは私くらいでおもしろいかしら、などと冗談を言えるような状況ではなく、痛みで微動だにできない状態で果たして声は出るのかと不安が先立った。

 女性が手術室に向かう直前、体に力が入らない中で歌ったアメイジング・グレイスは、驚くほどすんなりと歌えた。見舞いに来ていた旦那さまも女性と共に喜んでくれたようで、ほっとした。

 イタリア留学中、知人に紹介され老人ホームでオペラを歌う機会があった。若く経験の浅い私の歌に「ブラーヴァ!」(男性にはブラーヴォ、女性にはブラーヴァと掛け声をかける)とホームの入居者らから歓声を送られ、オペラを熟知しているイタリア人らしく、コンサート終了後には温かいアドバイスもくれ、感動を覚えた。

 歌う事が癒しになるのか、今でも良くわからない時がある。ただ、癒しを求める誰かの為に歌う事ができれば、それは自分にとっても喜びとなって戻ってくる。ハルモニ、ハラボジや小さな子どもたちに喜んで聞いてもらえる歌も、歌っていけるように。(チョン ヒャンス 、歌手)

[朝鮮新報 2009.2.27]