〈みんなの健康Q&A〉 インフルエンザワクチン−予防接種 |
Q:いよいよ新型インフルエンザワクチン予防接種が始まりました。ワクチンとは何なのですか。 A:天然痘の免疫を獲得するために行われた牛種痘がワクチンの元祖とされていて、「牛」を意味するラテン語からワクチンという言葉が由来しています。ワクチンは生体が本来持っている仕組みを利用して、さまざまな感染症に対する「免疫力」あるいは「免疫記憶」をあらかじめ作らせておく生物製剤のことです。毒力を弱めた生きたウイルスや細菌から作られる生ワクチンと、精製してホルマリンなどで殺菌または無毒化してつくった不活化ワクチンがあります。 Q:なぜインフルエンザワクチンは毎年接種する必要があるのですか。 A:このウイルスは変異を起こしやすく、病原体としての性格がすぐに変わってしまいます。これを抗原性といいますが、ワクチンの製造株を実際の流行株の抗原性と合わせなければ効果が薄いので、毎年次の時期に流行しそうなウイルス株を予測して新たなワクチンを製造しなければなりません。つまり、毎年異なったワクチンが作られることになり、そのたびに接種する必要が生じてくるわけです。また、インフルエンザワクチンによる免疫効果はだいたい6カ月でです。 Q:ワクチンはどのようにして作られるのですか。 A:ワクチン製造に適していると厚生労働省より指定されたウイルス株を有精鶏卵内に接種して、まずそこで培養して増殖させます。このウイルスを含む培養液を取り出し特別な遠心機を用いて精製濃縮します。これに薬品処理を施してウイルス粒子を分解し、それによってできる抗原成分の浮遊液を採取します。さらにホルマリンにより不活化した後、ウイルスの抗原成分が規定量含まれるよう調整して完成です。不活化ワクチンは生ワクチンに比べて安全性は高いのですが、十分な免疫を得るためには2回以上の接種が必要となることが多いです。 Q:卵アレルギーの人は接種を受けられませんか。 A:ワクチンは発育鶏卵を利用して製造されますが、近年は高度に精製されているので、アレルギー症状が起こることはほとんどありません。ただし接種要注意者として、接種後しばらく観察が必要です。 Q:妊婦や授乳中の人にも接種可能ですか。 A:生ワクチンではないので妊婦においても特別に重篤な副作用は起こらないと考えられ、一般的に妊娠中のすべての時期において接種可能です。また、不活化ワクチンなので、ウイルスが体内で増えることはなく、母乳を介してお子さんに影響を与えることはありません。 Q:この予防接種を受けられない、不適当とされるのはどのような場合ですか。 A:まず、明らかな発熱を呈している方には接種できません。体温には個人差がありますが、37.4℃以下で体の具合が悪くなければ原則的に大丈夫です。次に、重篤な急性疾患にかかっている方には接種ができません。たとえば、ひどい風邪、肺炎・胃腸炎などの感染症の場合です。もうひとつ、過去に接種によって呼吸困難、ショックなどのいわゆるアナフィラキシーを起こしたことのある人は接種不適当になります。 Q:脳卒中や慢性呼吸器・心臓病を有する人は大丈夫ですか。 A:そのような慢性疾患があるからといって通常は不適当にはあたりません。むしろ積極的に予防接種がすすめられています。 Q:この予防接種の効果について教えてください。 A:インフルエンザウイルスは鼻腔内やのどの粘膜で増殖します。だから、ワクチン接種により作られた抗体はこの周辺で働かなければなりません。現在行われている皮下注射による接種方法では血液中に多量の抗体ができますが、残念ながらウイルス増殖部位に滲出して働いてくれる抗体の量は少ないとされています。それゆえ、感染予防というより感染後の症状や合併症の軽減効果が主目的と考えてください。ワクチン株と流行性が一致したときの有効性は健康成人において70〜90%といわれています。A型の場合、B型よりも有効性が高いことがわかっています。抗原性が合わないときでも全く有効性がないというわけではありませんが、せっかく接種しても発症確率は高くなります。しかし、続発する敗血症や肺炎などの重症化防止には、血中の抗体が直接的に働くので期待することができます。 Q:この予防接種によって身体に異常が生じることはありませんか。 A:副反応とよばれ、約10%で接種部位の発赤、腫れ、痛みを起こしますが、ふつうは数日で自然消失します。また数%の方では発熱・悪寒、頭痛、だるさを認めますが、これも通常は2〜3日でなおります。いわゆるアレルギー反応として発疹、掻痒感がみられることもあります。脳神経障害、痙攣などの重篤な副反応も報告されていますが、因果関係は必ずしも明らかにはされていません。 Q:従来の季節性インフルエンザワクチンと新型のものとの違いはどういうものですか。 A:抗原性が異なるというだけで、基本的には製造方法や効果・副反応などに大きな違いはありません。国内で製造された新型用ワクチンならば、季節性用ワクチンと同時に接種してもよいことになっています。 Q:新型インフルエンザの脅威でワクチンが不足し、社会的影響も大きいようです。 A:眼に見えない病原体が相手なので人々の不安ももっともだと思います。しかし、一般的にインフルエンザワクチンは重症化防止や発症予防効果が期待されているだけで、感染そのものを防止するためのものではありません。感染防止の効果は保障されておらず、死亡者や重症者の発生をできる限り減らすことと、こうした患者が集中発生して医療機関が混乱することを防ぐためのものなのです。接種さえすればもう安心、というわけにはいきませんので、過信しないようにしてください。また、ワクチン接種は義務ではなくあくまで任意であることを忘れないでください。ワクチン接種をしていない人を遠ざけたり、差別するような風潮があってはなりません。(金秀樹院長、医協東日本本部会長、あさひ病院内科、東京都足立区平野1−2−3、TEL 03・5242・5800) [朝鮮新報 2009.12.9] |