top_rogo.gif (16396 bytes)

〈朝鮮と日本の詩人-110-〉 吉野弘

朝鮮語へのあふれる愛

 韓国語で
 馬のことをマル()という。
 言葉のことをマール()という。
 言葉は、駆ける馬だった
熱い思いを伝えるための−。

 韓国語で
 目のことをヌン()という。
雪のことをヌーン()という。
天上の目よ、地上の何を見るために
まぶしげに降ってくるのか。

 韓国語で
 一のことをイル()という。
仕事のことをイール()という。
一つ一つの地味な積み重ねが
 仕事だ。

 韓国語で
 行くよということをカマ(가마)という。
輿のことをカーマ(가마)という。
 行くよという若い肩の上で
 輿が激しく揉まれはじめる。

 韓国語で
 一周年のことをトル()という。
 石のことをトール()という。
 石の縞目に圧縮された、時の堆積−
 一周年はどれだけの厚みだろう。

 朝鮮語への愛情にみちた「韓国語で」の全文である。詩を成り立たせる手法の一つに語呂合わせというのがあるが、この詩では、朝鮮語の同音異語を巧みに用いて、1連が5行の全5連を定型詩のように組み立てている。そして、各連には、易しい言葉にこめられた詩人の哲学的思索が抒情で息づいている。

 吉野弘は1926年に山形で生まれ酒田商業を卒業した。詩「漢字喜遊曲」など文字・言葉遊びの詩で人生を凝視する作品が幾編かあり、強大国米国批判の詩「オネスト・ジョン」など政治的テーマの作品も目につく。詩集「幻・方法」「入曽」などと詩画集「10ワットの太陽」がある。(卞宰洙 文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.11.9]