〈食のはなしJ〉 薬食同源の朝鮮料理 |
「病気予防は食にあり」 朝鮮料理が固有な食文化として発展し、調理や栄養的にそのすばらしさが認められるようになったのは、朝鮮王朝における宮中料理なくしては語れないといっても過言ではない。 日本では南の歴史ドラマ「大長今(チャングムの誓い)」が朝鮮料理をはじめ歴史や文化を知るきっかけになったであろう。 このドラマの内容、構成に大きな影響を与えた宮中飲食研究院(1971年設立)では、朝鮮王朝の宮中飲食に関する研究、伝承、保護活動を活発に行っている。 同研究院で出版された「朝鮮王朝、宮中飲食」(黄慧性著)によると、階級社会であった朝鮮王朝では王族や両班など上流階級と一般庶民との関係は断絶しており、同姓同本貫同士の結婚を禁ずる儒教の教えにより、両班から妃を迎えたり王女が降嫁するということがひんぱんに行われていた。このような婚制により、自然に王族と両班との間で衣服や礼法などさまざまな生活様式の交流が行われるようになったといわれている。 宮中料理は、婚礼の宴をはじめさまざまな祝宴に朝鮮各地から採れる多彩な特産物が進上され、調理技術の長けた者(尚宮、待令熟手)が腕をふるい、発達したとされる。庶民と宮中との間で食材や調理法の交流が盛んであったため、朝鮮料理はいっそう多様化したといえる。 朝鮮料理の大きな特徴といえば、薬食同源を土台とした食文化を挙げることができる。薬食同源とは日常の食事で病気を予防し治療するという考え方である。 かの有名な「東医宝鑑」(許浚著)は「医員は病気の原因がわかったら飲食により治療を行い、それでも治らなければ薬を処方する」と記している。 朝鮮では薬果、薬酒、薬飯など食べ物によく「薬」という言葉があてられているが、「病気予防は食にあり」という薬食同源の基本的な考え方が内在しているといえる。 もっとも宮中料理は、朝鮮全土で体に良いとされるさまざまな食材を集め王に献上したといわれているので、薬食同源がよく反映されていたに違いない。 ところで薬食同源を食に応用するポイントとは、陰陽5行説に基づいたバランスをとることだ。具体的な解説はここでは省くが、食事をするうえで大いに応用できる考え方である。 陰陽説は異なる性質を持った食材、料理などを合せて食することで陰陽のバランス、すなわち栄養のバランスが自然にとれるという。 たとえば、肉にはナムルやキムチをはじめ野菜類を、甘い物には塩辛い物、温かい料理には冷たい物、固形の料理には汁物といった摂取方法をとれば、おのずとバランスが取れる。 5行説では5つの味(甘、酸、辛、苦、塩)、5つの色(黒、白、黄、赤、青)、すなわち五味五色のバランスを取ると健康が維持できるうえに、何よりも料理が美しく見えるので食欲がそそられ消化も促される。 これらは日常の食生活に十分取り入れることができる。難しく考えずいろいろなものを食し病気を予防していこう。(金貞淑、朝鮮大学校短期学部准教授、栄養学専攻) 朝鮮料理の特徴 1.穀類が豊富。 [朝鮮新報 2009.11.6] |