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〈みんなの健康Q&A〉 歯周病−全身疾患との関係

 Q:歯みがきと心臓病はどんな関係があるのですか。

 A:歯みがきがおろそかになると歯の表面にデンタルプラーク(細菌の塊)が増えてきます。これが歯周病の原因になるのはご承知のとおりですが、歯周病が進むにつれ心臓病の累積罹患率が高まることが疫学研究の結果から明らかになっています。歯を支えている骨が失われ深い歯周ポケットができると、炎症によって拡がった血管の隙間から細菌や毒素が入り込み心臓病を起こりやすくすると考えられています。実際にバイパス手術の際に切り取った心冠動脈病変部から歯周病関連菌(P、ジンジバリス、A.アクチノマイセタムコミタンスなど)が見つかっています。ですからブラッシングでデンタルプラークを増やさないこと、歯周病をきちんと治すことが心臓病のリスクから身を守ることにつながると言えます。

 Q:歯磨きはインフルエンザ予防に効果があるのでしょうか。

 A:インフルエンザウイルスの表面にはHA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)の二つのタンパク質があり細胞への感染と増殖に関わっています。一部の口腔内細菌は、TLP(トリプシン様プロテアーゼ)というタンパク質を介してHAの機能を活性化しウィルスが細胞の中に入り込む手助けをしていることが明らかになっています。細胞内で増えたウイルスが他の細胞に入り込むために外に出るためにはNAの作用が必要になるのですが、この作用をブロックしウイルスの増殖を防ぐのがインフルエンザの特効薬タミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬です。

 東京歯科大学微生物講座の研究グループは、65歳以上の在宅介護高齢者を対象に行った調査結果から口腔ケアを専門的に行った群は対象群にくらべインフルエンザの発症率が9分の1だったと報告しています。

 インフルエンザ予防の決め手はワクチンですが、手洗い、うがいとともに歯磨きを中心とした口腔ケアーを積極的に行うことが効果的と言えます。

 Q:歯周病と糖尿病との関係についてどんなことがわかっているのでしょうか。

 A:糖尿病は膵臓で産生され血糖値を下げるインスリンの作用が妨げられたり(インスリン抵抗性)、分泌自体が低下することで発症します。運動不足による肥満やストレス、過食、炎症等が原因でインスリン抵抗性が高まると考えられています。

 糖尿病(U型)や肥満患者では脂肪細胞から産生される生理活性物質TNF−α量が増えることでインスリン抵抗性が高まりますが、実際に肥満患者では体重が減少すると血中TNF−α濃度が減少し、インスリン抵抗性も改善することが知られています。歯石やデンタルプラーク(細菌の塊)のこびりついた歯根表面に接して腫れあがった歯肉の内面では、細菌の毒素(LPS)によって活性化した免疫細胞がたくさん集まってTNF−α等の生理活性物質をたえず産生していると考えられます。つまり、進行した歯周病を放置することでTNF−α産生量が増え、インスリン抵抗性が高まり糖尿病が悪化する可能性があるということです。

 疫学的研究の結果からも2型糖尿病患者では、歯周病の発生率が高く歯を支える骨も吸収が進んでいることがわかっています。

 Q:なぜ歯周病を予防することがそんなに大切なんですか?

 A:皆さんの歯や口は、ものを食べるだけではなく会話や感情表現などコミュニケーションを担う器官として重要な役割があり、審美的にも大切な要素なのでさまざまな原因で歯や口の機能を失うと生活の質(QOL)の低下を招くことになります。

 いつまでもおいしく、楽しく健やかな生活を営むために歯を失う大きな原因であるウ蝕(虫歯)や歯周病を予防することは重要です。今まで述べてきたように、歯周病の予防や治療は心臓病や糖尿病を含む全身の健康とも関連があることから生涯を通じた健康つくりに欠かせない課題であると言えます。

 Q:歯周病を予防するにはどのようなことを心がけたら良いでしょうか?

 A:予防の基本はお口の中を清潔に保ち原因となる細菌の数をいかに減らすかということですが、細菌は口の中で自らが生息しやすい環境をつくるために粘着性グリコカリックス(菌体外多糖)で覆われたバイオフィルム(デンタルプラーク)を形成します。これは、バリアとして機能するため抗菌剤や生体防御機構にも抵抗性があり取り除きにくい性質を持っているため物理的に破壊する必要があります。浴槽のヌルヌルをブラシでこすり落とすことをイメージするとわかりやすいですね。一日の汚れはその日に落とすという意識を持って、毎晩のブラッシングはとくに入念に行うことをお薦めします。

 すでに歯周病が進んでしまった人も多いと思いますが、早めの治療とその後のメインテナンスを継続することが大切です。とくに心臓病や糖尿病の持病を抱えている人は、この機会に歯周病を見つめなおしていただきたいと思います。歯周病を治療しプラークコントロールを徹底することで病状が改善する可能性もあります。(朱弘院長、藤橋歯科医院、栃木県宇都宮市中央1−5−7、TEL 028・637・0903、http://www.fujihashi-dental.com)

[朝鮮新報 2009.11.4]