〈食のはなしI〉 低出生体重と「肥満」 |
小さく産んで大きく育てる?! 一昔前まで「小さく産んで大きく育てる」ことが妊産婦にとって理想であり、産科医から「妊産婦の体重増加はさまざまな疾病につながる」と指摘された方も多いのではないだろうか。
しかし、最近になり低出生体重児が逆に増え、これが心配されるようになってきた。中でも板橋家頭夫・昭和大医学部教授は、「女性の体格は向上したのに赤ちゃんは小さくなっている。これは心配な事態」と指摘している。
厚生労働省の人口動態統計によると20年前までの平均出生体重は約3.2キロだったが、2003年には3キロに減少した。たった20年の間に約200グラムも減ったのだ。さらにこれは、60余年前の戦前の平均さえ下回っていて先進国といわれている国々の中で日本だけに見られる現象だという。 では、この現象がなぜ心配なのか? これについて小児科医たちは、「母胎内で十分に発育していない胎児は、成長後にさまざまな疾病を患う恐れがある」と警鐘を鳴らす。カロリー制限によって妊産婦が栄養摂取不足になると、胎児が母胎内で一種の「飢餓状態」に陥る可能性があるということだ。 こうした状況に胎児は低酸素、低栄養という一種のストレスを乗り越えるため、少ない栄養を最大限に取り込もうと本能的な働きをする。すなわち少ない栄養を蓄えようとする機能が発達してしまい、飢餓にそなえ脂肪がつきやすくなるという。したがって、「小さく産んで大きく育てる」ということが「肥満」のリスク、まさしく生活習慣病の危険性を高めることになるというのだ。実際低出生体重児が大人になると、生活習慣病の発症リスクが高いというデータがある(英国サウサンプトン大・医学部のデイヴィットバーカー教授提唱)。 低体重化の直接的な原因はまだはっきりわかっていないが、女性のやせ願望、ダイエット志向などの影響と「妊娠中の太りすぎに注意」という世間一般の認識が合わさったものと考えられ、結果、妊娠中のカロリー摂取制限が出生体重の低下を招いていると示唆する専門家もいる(藤原葉一郎、産婦人科医)。 われわれはこれから「生活習慣病」の素因をもって「小さく生まれた」子どもたちが成長段階で肥満をきたす、つまり「大きく育つ過程」が子どもの将来に危険をもたらすと認識した方がいいのかもしれない。 しかし、妊娠期間の体重管理はホルモンのバランスやさまざまな体調の変化に伴ってとても難しく、以前と同じ量を食べたら瞬く間に体重が増えてしまう。そこで厚生労働省では「妊産婦のための食生活指針」を策定し、自己の食生活管理とその指導に力を注いでいる(表参照)。 在日同胞女性のデータがないのが残念だが、少なからず日本社会の影響を受けていると思われる。とはいえ私の知人には、少子化というご時世の中でも3〜4人の赤ちゃんを産んで育てている同胞が結構いる。とても喜ばしいことだ。これからもバランスのよい食事を積極的に取り入れ、健康な赤ちゃんを産んでほしいと切に願う。(金貞淑、朝鮮大学校短期学部准教授、栄養学専攻) [朝鮮新報 2009.10.23] |