top_rogo.gif (16396 bytes)

〈食のはなしF〉 食育

子どもの笑顔と心を育てる

 5月末、香川県綾川町立滝宮小学校で「弁当の日」を発案した竹下和夫校長の講演を聴きに東洋大学へ足を運んだ。

 「弁当の日」とは2001年から実施された食育活動の1つで、ルールは以下の3つ。

 @子どもだけで作る
 A家庭科がある5・6年生が対象
 B年に5回行う

 ポイントは、「親は決して手伝わない」ということ。

 つまり献立、買出し、片づけまで全部子どもたちだけにさせるという試みだ。

 発案当初、PTA役員をはじめ猛反対を受けたそうだが、子どもたちの成長ぶりを目のあたりにすると支持率が100%になったという。

 また子ども自身もそうだが、父母をはじめ家族のあり方を考える大きなきっかけとなった。家を出て行った母を呼び戻したり、給食の残食率がぐんと下がったり、家族の会話が増えたりと、子どもを取り巻く環境が確実に変わってきたと校長先生は述べていた。

 心配された調理中の事故数は0件、現在500校以上が実施し、共感の輪は今も広がっているという。

 07年6月、東京朝鮮第3初級学校でオモニ会主催の食育講座が開かれた。講師は管理栄養士である金理順先生。助手として、朝大短期学部生活科学科の2年生2人が参加した。

 まずは、朝食の大切さから話が始まった。次にメインである朝鮮の食文化の話。朝鮮では昔から5色の食材を常に食卓でいただく伝統があると話すと、子どもたちの目が急に輝き始めた。

 「赤、青、黄、白、黒の食材は?」という質問に対し、「キムチ!」「トルギム(朝鮮のり)」「ピビンバ」など次から次へと朝鮮料理名を答えていた。

 そこで講師は、食の大切さを「薬食同源」の考え方でわかりやすく説明したあと、食事時のマナーの話へ。食事の際、スッカラ(スプーン)をよく使うこと、食器を持ち上げたり食器に口をつけたりしないこと、食事をするとき目上の人が口にするまで他の家族は待つことなど、朝鮮伝統の食事の風景を伝えていた。

 講座終了後、子どもたちはオモニたちが準備した「キムパプ(朝鮮風のり巻き)」コーナーへ。

 それぞれ、朝鮮のりを片手に講座で学んだ5色の食材を色鮮やかに巻いて口へと運んでいた。まさに味覚、視覚など五感で朝鮮料理の原点を味わった経験だったに違いない。

 このように、日本学校の「弁当の日」とウリハッキョの「食文化の講座」は食育のきっかけであり、1つの手段である。食育の形や手法は多岐にわたるので食から社会、家族の姿を垣間見ることができ、コミュニケーション手段として大いに活用できる。

 ところでこの「弁当の日」と「食文化の講座」、なんといっても子どもたちの笑顔が印象的だった。これは、生きる喜びを感じ、あふれんばかりの愛情を受けている証だと確信した。

 「食卓の向こう側No.1」に載っていた青春期内科、森崇医師の言葉が思い出される。「食卓とは、あなたのために料理を作っているのだという親の愛情を子どもに伝える場」。子どもたちの「おなかがすいたよー」に対し、コンビニでおにぎりを買ってあたえるより、オンマのソンマッ(謝言)で作ったおにぎりを作ってあげることが、お腹も心も満たされ笑顔も絶えないはずだと思う。(金貞淑、朝鮮大学校短期学部准教授、栄養学専攻)

[朝鮮新報 2009.8.28]