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〈朝鮮と日本の詩人-102-〉 長田弘

ユッケジャンの食べかた

 悲しいときは、熱いスープをつくる。
 豚肉、カルビ、胃壁、小腸。
 牛モツをきれいに洗って、
 水をいっぱい入れた大鍋に放りこむ。
 ゆっくりくつくつ煮てスープをとる。
 肉が柔かくなったらとりだして
 指でちぎる。
 それから葱のみじん、大蒜のみじん、
 唐辛子みそに唐辛子粉、胡椒、
 ゴマ、炒りゴマ、醤油を混ぜて
 しっかりからませてからスープにもどす。
 おおきめにぶつ切りした葱を放りこむ。
 強火でどっとばかり煮立てる。
 溶き卵を入れ、固まるまえに火を止める。
 ユッケジャン、大好きなスープだ。
 スープには無駄がない。
 生活には隙間がない。
 「悲しい」なんて言葉は信じないんだ。
 悲しいときは、額に汗して
 黙って涙をながしながら
きりっと辛いスープを深い丼ですする。
 チョッター! 芯から身体があたたまってくる。

 「ユッケジャンの食べかた」という、料理本の一項目を思わせるような題名の詩の全文である。出典は食物と料理を主題にした、「台所の人々」「お茶の時間」「食卓の物語」「食事の場合」の4部からなる詩66編を収めた詩集「食卓一期一会」(晶文社・1987年)である。

 朝鮮料理の代表的一品であるユッケジャンのつくり方と食べ方を、たたみかけるような詩行で軽妙なリズムを整えて、朝鮮民族のすぐれた食文化を称えている。「悲しい」という詩語が三回用いられているところに、モチーフの一端が示されている。「きりっと辛いスープ」が「隙間」のない生活から生ずる悲しみを霧散させてくれるというのである。この詩集には食物と戦争を主題にした、「戦争がくれなかったもの」という反戦詩の絶唱も収められている。

 1939年に福島で生まれ早稲田大学を出た長田弘は60年安保の世代であり、現代詩における抒情とは何かという問題意識をもって詩作をつづけた。「われら新鮮な旅人」「長田弘詩集」「メランコリックな怪物」などの詩集や「見よ、旅人よ」他の評論集など多数の著書がある。(卞宰洙 文芸評論家)

[朝鮮新報 2009.8.24]