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〈こどもの本だな〉 夏休みには本を読もう!

在日1世のハルモニのはなし他

 うっとうしい梅雨が明けると、夏休みはもうすぐそこまで近づいている。

 今年の夏休みはどう過ごそう? 部活に汗を流したり、家族と旅行へ出かけたり、遠くの親せきの家に遊びに行ったり。

 子どもにとってもそれなりに忙しい夏休みだけど、時には本を手にとって、朝鮮の物語を読んでみるのも良いかもしれない。

 ここで紹介する本は、一般書店のほか、コリアブックセンターでも注文できる。

 問い合わせ=コリアブックセンター(TEL 03・6820・0111、FAX 03・3813・7522、Eメール=order@krbook.net。

「ワルルルさん」−たくましく生きる1世の姿

くもん出版、TEL 03・3234・4001、1400円+税

 小学5年生の來未は、六甲山の南側にある団地に両親と姉、弟の5人で暮らしている。同級生の桃華ちゃんとは大の仲よし。

 ある日、弟との喧嘩がきっかけで家を飛び出した來未は、ひとりの不思議なおばあさんに出会う。このおばあさん、おしゃべりは達者なのに、読み書きが不自由そうなのだ。

 おばあさんは、戦前、朝鮮半島から日本にやってきた。現在は、神戸市長田区で、小さなお好み焼き店を営んでいる。識字教室に通い、日本語の読み書きを一から勉強しているという。來未は、人なつっこくて、何ごとにも前向きなこのおばあさんに、惹かれていった。

 そして、1995年1月17日−。

 阪神・淡路方面を大地震が襲った。その日を境に、來未はおばあさんと連絡が取れなくなってしまう…。

 幾多の困難に直面しながらも、くじけることなく、前向きに生き続けようとするおばあさんの姿を、少女の視点から描いた児童文学。

 「ワルルル」とは、朝鮮語で、ガラガラガッシャーンといった、大音響を表す擬音。本書では、おばあさんの愛称として使われている。

「木槿の咲く庭−スンヒィとテヨルの物語」−「創氏改名」から解放までを描く

新潮社、TEL 03・3266・5111、1800円+税

 物語の舞台は、日本統治下の朝鮮。副題には、「スンヒィとテヨルの物語」とあるが、その内容は、「スンヒィとテヨルが、スンヒィでもテヨルでもなかった頃の物語」になる。

 1940年、13歳のテヨルは「金山伸男」、10歳のスンヒィは「金山清子」に名前を改めざるをえなかった。「創氏改名」だ。

 物語には、ベルリン五輪マラソンで金メダルを獲得した「日本人選手」孫基禎の逸話、皇民化教育、愛国班、金属供出、勤労動員、抗日運動、そして特攻…と、当時の歴史的状況が影のように寄り添っている。

 テヨルは「日本人は僕らから、米と母国語、そして名前まで奪った」と言い放ち、日本語しか習っていないスンヒィは「一度も教わったことがないから、わたしには朝鮮語が書けない。/朝鮮の心を、日本語で綴るなんてことができるのだろうか?」と自問する。

 物語の主題は言葉、そして心。

 言葉を封じられていた日々の中、心に優しさと強さとを灯し続けた兄妹の美しい姿が描かれている。

 著者は在米コリアン2世。作品中のエピソードのいくつかは、彼女が両親から聞いた話がベースになっている。

「帰ってきた珍島犬ペック」−飼い主を探し続けた愛の物語

理論社、TEL 03・3203・5791、1300円+税

 全羅南道の南西端に位置する珍島から、忠清南道・大田に売られていった珍島犬ペック。おばあさんと孫娘ソヨンを忘れることができず、ペックは2人のもとへ帰ろうと決心する。オオカミや飢えとの闘い、人間による捕獲…。あらゆる苦難を経て、7カ月かけて300キロの道のりを走り、奇跡的に主人のもとに帰ってきたペックの感動の物語。

 本書の主人公となっている珍島犬は、珍島を発祥地とする朝鮮固有の猟犬。朝鮮半島にはほかにも豊山犬、サプサル犬が在来犬として存在する。かつて、これらの犬は、日帝時代に数々の受難にさらされた。「朝鮮総督府は1938〜45年の間に、朝鮮の在来犬を毎年10万〜50万匹も供出させ、合わせて150万〜200万匹を殺して防寒服の毛皮と食用に使った」(動物児童文学作家、キム・ファンさん)。

 しかし、珍島犬は、日本の秋田犬などと似ていることから「内鮮一体」政策に利用するため、38年に天然記念物に指定し保護。43年には、「トラ追い犬」として名を馳せていた豊山犬も保護の対象となった。両犬は、北南首脳会談時に交換されたプレゼント犬としても知られている。

「鬼神のすむ家」−ユニークな産神ばあさん

素人社、TEL 077・529・0149、1900円+税

 ウニの家に赤ちゃんが生まれる。産神ばあさんは茶色っぽいチマに、もめんのチョゴリを着て、腰にはトウガラシと松の枝を編み込んだナワを巻いている。産神ばあさんは人間ではなくて鬼神だ。だから、人間の目には見えない。この家に産神ばあさんが住んでいることなど誰も知らない。

 産神ばあさんは昔とちがって、子どもが生まれるのにお祈りをしない「近頃の人間」に腹を立てている。

 ある日、田舎からおばあちゃんが長いわかめやトウガラシ、炭、そして縄をもってやってきた。おばあちゃんは産神ばあさんにおそなえすることを知っているのだ。

 昔を懐かしみ、時代の移り変わりを嘆きながらも、産神ばあさんは赤ん坊がぶじ生まれ、すくすく育つよう、見守ってくれる(「鬼神のすむ家」)。

 本書には、他にも「じゃこ一ぴき」「大きくならない木」「ユンスとキムチのチヂミ」などの創作童話と、「ふしぎなりんごの木」「海辺の家」などのファンタジー、「金の鳥」「なんでもばあさんの新年の願い」などの創作民話全16編が収録されている。翻訳にあたったのは、大阪を拠点に活動する「オリニほんやく会」。

[朝鮮新報 2009.7.3]