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〈本の紹介〉 精神史の旅5

朝鮮へのいのちの旅

 福岡県で炭鉱や朝鮮半島について書きつづけてきた詩人、作家の森崎和江さん。このたび、初の著作集「森崎和江コレクション 精神史の旅」全5巻(藤原書店)が完結した。
 森崎さんは、日本の植民地統治下の朝鮮・慶尚北道大邱で生まれ、17歳までその地で育ち、それが、「原罪」となった。かつて本紙のインタビューで「何にも知らずに(朝鮮を)好きになってしまった。おわびのしようもない生き方をした」と涙ぐみながら、語ったことがある。

 慶州中学校初代校長などを歴任した父に連れられ、大邱や慶州で暮らした。その少女時代を振り返りながら「よその民族の風習や歴史的な伝統を我田引水的にむさぼり生きた無分別さ」ととらえかえし、「植民地の二世には、内地はおはなしの世界であり、朝鮮は私の血肉を養ってくれる現実であった」と述べる。幼い頃、朝鮮のオモニたちから頭をなでられ、小銭をにぎらせようとされた記憶。「常々、見知らぬオモニたちに見守られている」という思いがあった。植民地朝鮮への複雑な視線、その地を愛すれば愛するほど自覚せざるをえない罪の意識が、全巻を深く通底する。

 教師だった父親は、朝鮮人生徒に信頼されるリベラルな人だった。その父からは、「朝鮮人はすぐれた人々だ。もし軽んずるような心が起ったら恥じよ」といい聞かされて育った。そして、朝鮮人生徒に対しても「君たちは家の歴史を大切にせよ」と口癖のように語っていたという。その父は日本の憲兵につけまわされ、一家の緊張が続く。

 1952年に福岡県久留米市で結婚して翌年、出産。間もなく、東京の大学に学んでいた弟がひょっこり現れた。「和んべ、甲羅を干させてくれないか」「ぼくにはふるさとがない。女はいいね、何もなくとも産むことを手がかりに生きられる。男は汚れているよ」と。弟は翌月、自殺した。森崎さんは、同じ植民地育ちの弟に居場所を与えてやれなかったと、悔やむ。

 この「コレクション5巻」について、著者は「植民二世の原罪意識の歪みを、訂正したくて苦悩しつつ生きたわが足跡」だと述べている。思想家として、詩人、記録者として、文学者として、また、ウーマンリブの先駆けとして、多様な仕事をなし遂げてきた森崎さんの道のりを知るうえのまたとないコレクション。(森崎和江著、藤原書店、TEL 03・5272・0301、3600円+税)(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2009.6.19]